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今日はちょっと話題を変えて薬ができるまでのお話をできればと思います。



1. 薬ができるまでのお話

くすり(新薬)を生み出すためには、とても長い研究開発期間が必要です。有効性・安全性がしっかりと確認された後、承認を受けて発売されます。 


日本では新薬を生み出すために、要する期間は9~16年。そして、新薬として販売に至る化合物は全体の25,965分の1と報告されております(出典※1)。


そのため研究と開発を続け新しい薬を生み出すために非常に多額の費用がかかると言われています。


新薬を開発した製薬企業には、承認を受けて発売後も有効性・安全性の調査を続けることが義務付けられています。


薬が患者さんの手に届くまでの道のりをお話していきますね。




2. 新薬の候補を見つけ出すには?

新薬を生み出すためには薬の種となるもの(化合物)を探していくことから始まります。


歴史的には、例えば抗生物質のペニシリンや、ノーベル賞を受賞した大村智博士のイベルメクチンなど自然界から発見された細菌や化合物から薬につながった例は数多くあり、自然界のなかに薬の種となる成分は存在します。


自然界に存在する数多くの物質の中から、有効性と安全性を備えた薬を見つけることはとても時間と労力がかかります。


現在は化合物ライブラリーと呼ばれる、薬の種となりそうな化合物を沢山集めたものの中から種を見つけて、どんどん有効性と安全性を上げていくという方法が一般的です。


薬の候補となる化合物を絞る際、磨き上げていく際には、実際にどのような構造のものが有効性、安全性が高くなりそうかなどをコンピュータによるシミュレーションを使って探索していくこともされております。


その物質の安定性(簡単に薬が分解したりしないか?)や水への溶けやすさなども調べます。



3. 「非臨床試験(ひりんしょうしけん)」ってなに?

薬の種の中で有望そうな候補の化合物が見つかってきたら、次は「非臨床試験」を実施します。


実際に健康な方や患者さんなどに薬を使って頂いて有効性と安全性を確認する試験を「臨床試験」と呼ぶのですが、動物、細胞などを使って試験するために「非臨床試験」と呼ばれます。


そのとき有望そうな候補化合物が有効であるかどうかと、安全性を確保できるかどうか、ちゃんと役目を終えた後に体の外に排出されるか?を確認していきます。


まず人工的に育てた細胞(培養細胞)で狙った効果の有無と強さを調べます。


細胞の中へどのくらい入るのか?肝臓の細胞で他の薬の作用を弱くしたり、強くしたりする可能性がないか?を確認します (これは少し詳しく言い換えると、代謝酵素に対する影響を調べることです)。


次に実際に動物で薬が狙ったところで作用するか、ちゃんと薬が効いた後に代謝・排泄されるか(体の外に出されるか?)を調べます。薬の弱さ・強さ(有効性)ももちろん調べます。


そして何回も繰り返して投与したり、たくさん投与したときの安全性を確認します(実際の患者さんも薬は一回ではなく一日に何回も飲んだり、毎日飲む必要があるのでその際の安全性を確認するためです)。


その際には、薬によってガンになってしまう可能性はないか?(発がん性の確認)、次の世代にまで残ってしまうリスク(生殖毒性)がないか?なども調べます。



4. さいごに

このように、、、ここまで一気に書いてしまいましたが、各ステップで良い結果が得られなければ問題点を改良できるように、このサイクルをくり返していきます。


化合物が良くなるように構造を変えて、細胞で試験を実施して・・・と、有効性と安全性が両立できる化合物を探し出していきます。


実際に新しい薬ができるまでにこれほど多くの段階が必要になります、本当に大変ですよね。


今後IBDにおいてさらに研究と新薬の開発が進んで、「IBDを完治できる」日が来るようことを期待したいと思います。



出典※1「てきすとぶっく製薬産業:新薬で未来を創る2018-2019」

参考:日本製薬工業協会HP  くすりについて http://www.jpma.or.jp/medicine/