専門家の記事

こんにちは、ジーケアの宮﨑です。


今回は、前回のIBDと脂質(基礎編)を踏まえ、日々の生活の中で、どのように脂質と付き合っていくべきなのかについて解説していきます。



1 日常生活の中で脂質について注意すべきこと

IBD患者が日常生活で注意すべきことは、“脂質の量とバランス“です。


まず、IBD活動期において脂質の摂取が病態に関与するという明確な科学的根拠(エビデンス)はありませんが、一般的に脂質は消化に時間がかかり、消化されずに残った脂質は、消化管の動きで押し出す必要があるために、消化管の動きが活発になります。


活動期では、消化管の負担をできる限り抑えるため、活動期は低脂肪食が望ましいと言われています。


IBD寛解期では、活動期のような強い脂質の摂取量の制限は必要ないと考えられます


ただ、制限がないから何でも食べて良いわけではなく、あくまでも健康的な範囲での食事であれば制限が必要ないという意味です。


特に肉類・揚げ物・加工食品・ファストフードなどの摂取は、脂質の過剰な摂取につながりやすいので気を付けましょう。


このような食品の摂取が増えるのは、IBD患者さんだけでなく、健康な人にとっても良くありません。


また脂質の摂取量に加え、どの種類の脂肪酸を摂取するのかが重要ということがわかってきています。


肉類・卵・乳製品・サラダ油などは炎症を悪化させる可能性のある飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸を多く含んでいる一方で、魚類・菜種油・オリーブ油などは炎症を抑制する可能性が示唆されているオメガ3系脂肪酸やオメガ9系脂肪酸を多く含んでいます。


食の欧米化や加工食品の普及により、どうしても飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸を摂取が増えてしまいがちになりやすいので、意識してオメガ3系やオメガ9系脂肪酸を摂取するように心掛けましょう。



2 脂質の少ない食品の選択

下記の表は、主菜である肉類(鶏肉、豚肉、牛肉)の脂質含量を示したものになります。


ご覧の通り、肉の種類・部位によって脂質の量が大きく異なります。


一般的に、鶏肉・豚肉・牛肉の順に脂質が多くなると言われています。また部位別にみると、ささみやむね肉、もも肉などが脂質の量が少ないので、これらの部位を選びましょう。


また牛乳やヨーグルトといった乳製品は、低脂肪や無脂肪ものを選択し、脂質の摂取量を減らしましょう。


この表にない食品に含まれている脂質の量を知りたい方は、食品成分表データベースより簡単に検索することができるので、興味がある方は調べてみて下さい。


食品成分表データベース:https://fooddb.mext.go.jp/


(参考)牛肉・豚肉・鶏肉部位・調理法別100gあたりに含まれる脂質量(g)1



またIBD患者さんでも、どうしてもこのようなファストフードや加工食品などを食べたいときもあると思います。その時は“食べる量と頻度”に注意しましょう。


例えば、外食する時はできるだけ低エネルギーの料理(低エネルギーの料理は低脂質の場合が多い)を選択するようにしましょう。


脂質の多いものを1回食べた場合、一時的に消化器症状が出る可能性はありますが、病気の再燃につながることは少ないと思います。


しかし、高い頻度でそれを繰り返していると病気の再燃につながるリスクは上がる可能性がありますので、できる限り頻度を減らすようにしましょう。



3 脂肪酸をバランスよく選択

摂取を増やしたいのは、オメガ9系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸です。一方摂取を減らしたいのは、飽和脂肪酸とオメガ6系脂肪酸です。具体的にどのような食品にこれらの脂肪酸が含まれているかについては、以下の表をご参照ください。



脂肪酸別の摂取を増やす/減らすべき食品




脂肪酸の種類と各脂肪酸が含まれる食物


この脂肪酸のバランスを整えるために日常生活の中でできることとしては、以下があげられると思います。


  • 飽和脂肪酸が多く含まれる肉類(牛肉、豚肉など)よりもオメガ3系脂肪酸が含まれる魚介類を積極的に摂取する。
  • 油を調理に使う際は、なるべくオメガ9系脂肪酸が含まれるオリーブオイルやキャノーラオイルなどを用いる。
  • 加工食品やスナック菓子などに用いられるサラダ油にはオメガ6系脂肪酸が含まれることが多いので、購入する際に食品ラベルを確認し、オメガ6系脂肪酸が含まれる・または含まれる可能性のある食品をなるべく控える。



以上、脂質について日常生活の中で気をつけるポイントについて紹介させていただきました。


食事には、これまでの習慣や好みむ関わってくるため、脂質の量を減らしたり、脂肪酸のバランスを整えることは決して簡単なことではないと思います。


ただ脂質をうまくコントローすることは、中長期的にIBDの疾患管理にポジティブな影響を与える可能性がありますので、少しずつできる範囲で食生活を変えていくことが大切になるかと思います。



参考文献

  1. 食品成分データベースhttps://fooddb.mext.go.jp/freeword/fword_select.plより作成。牛肉:輸入肉、豚肉:大型種肉、鶏肉:若鶏肉使用。部位別脂質量は生肉データ。



執筆: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国管理栄養士)

監修: 杉原 康平(栄養学博士、管理栄養士)、堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)