専門家の記事

今回は、The American Journal of Gastroenterologyという雑誌に発表された「肥満が炎症性腸疾患の疾患活動性と患者申告によるアウトカム測定情報システムに与える影響」という論文をご紹介します。

 

IBDでは消化管の炎症により、栄養素の代謝や消化吸収が変化することにより、栄養障害を起こすリスクが高いと言われています。


一方、抗TNF-αなどの薬物療法の進歩により炎症が抑制できるようになった結果、現在は肥満のIBD患者が増えてきていると言われています。

 

肥満がIBDの病態に及ぼす影響は未だ一貫した結果が得られておらず、肥満がQOLなどを下げるといった報告や、肥満はIBDによる手術や入院期間などには影響しないといった報告があります。

 

今回ご紹介する論文は、肥満がIBDの疾患活動性やPatient-Reported Outcomes Measurement Information System*(PROMIS)に与える影響を調べた大規模なコホート研究になります。


*アメリカ国立衛生研究所により作られた、慢性疾患患者に対する不安やうつ、睡眠障害などを評価する方法

 

肥満はBody mass index*(BMI)で評価し、BMI:18.5-24.9 kg/m2が「正常」、BMI:25-29.9 kg/m2が「過体重」、BMI:30-34.9 kg/m2が「肥満1度」、BMI:35-39.9 kg/m2以上を「肥満2度」と定義しています。

 

7000人以上のIBD患者の疾患活動性やPROMISによる不安やうつを評価した結果、BMIが高い潰瘍性大腸炎およびクローン病患者さんは、疾患活動性や不安、うつなどの指標が高いこと示されました。

 

また、潰瘍性大腸炎・クローン病ともに肥満の人は、再燃するリスクが高いことが示されました。


さらに、統計学的に再燃に影響する因子を解析した結果、潰瘍性大腸炎・クローン病ともに、肥満が病気の再燃に強く影響することが示されました。

 

以上の結果から、肥満はIBDの疾患活動性や不安やうつなどの精神症状などに強く影響を与えることが明らかになりました。

 

肥満は万病のもとといわれる通り、生活習慣病などの様々な病気に影響します。


今回の研究では、肥満による生体の変化が原因なのか、食事などの環境因子が影響しているのかは明らかにされていませんが、様々な要因が絡んできそうですね。

 

病気の寛解を維持するだけでなく、その他の病気にもならないよう体重管理は気をつけましょう。

 

今後もジーケアでは、IBDの最新研究をご紹介していきたいと思います。

 


文献

Jain A, Nguyen NH, Proudfoot JA et al. Impact of Obesity on Disease Activity and Patient-Reported Outcomes Measurement Information System (PROMIS) in Inflammatory Bowel Diseases. Am J Gastroenterol. 2019 Apr;114(4):630-639.