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ここまでわかってきた!IBDと食品添加物
こんにちは、ジーケアの杉原です。
今回はIBDと食品添加物についてご紹介します。
近年の食品加工技術の発展により、様々な加工食品が販売されるようになりました。
IBDでは加工食品に利用される食品添加物が良くないと昔から言われていましたが、最近の研究によりその詳細なメカニズムが判明してきました。
今回は食品添加物がIBDにどのような影響を及ぼすのか、最新の研究と合わせて解説します。
IBDにおける食品添加物のポイント
・動物実験では、食品添加物摂取により消化管の炎症が悪化することが確認
・食品添加物を含む食品は、摂取量と頻度に注意
1 食品添加物とは?
食品添加物とは、食品を製造する時に食品の加工・保存性などを向上させる目的で使用される物質です。よく食品に用いられる食品添加物を以下の表にまとめました。
代表的な食品添加物一覧
2 IBDに食品添加物は関係するの?
食品添加物は、安全性試験がきちんと行われ、生体にとって有害でない濃度で食品に利用されています。通常量を摂取する分には問題ないと思いますが、過剰な量の摂取が生体に及ぼす影響が懸念されています。
では実際にIBDに対してはどんな影響があるのでしょうか。
残念ながら、IBD患者さん(ヒト)を対象とした臨床研究において、食品添加物の影響を検討した研究はありません。
身体に悪いだろうと思うものを患者さんに投与するのは倫理的にも難しい面がありますので、動物実験を中心に研究が行われています。
今回は、その中でも注目されている2つの添加物の影響についてご紹介します。
1)乳化剤
IBDに影響する食品添加物として現在最も注目されているのが乳化剤になります。乳化剤は、通常は混ざらない水と油を混ぜ合わせるものに使用する添加物で、食品の風味や保存性の改善などに利用されます。
IBDの発症率が高い国では乳化剤の消費量が多いことから、IBD発症に乳化剤が影響することが示唆されていましたが(1)、本当に影響するかどうか科学的な根拠はありませんでした。
しかし、2015年に国際的な有名雑誌であるNatureに、乳化剤が腸炎を悪化させるという論文が報告されました。(2)
この論文では、マウスに乳化剤の一つであるカルボキシメチルセルロース(CMC)あるいはポリソルベート-80を投与すると、腸炎モデルの腸炎が悪化することが示されました。また、腸炎モデル動物ではない健康なマウスでも、腸管に弱い炎症が起こることが確認されました。(2)
この論文では詳細なメカニズムを解析しており、乳化剤の摂取によって特定の腸内細菌が変化し、腸管の粘液バリア*を障害させることが原因であることが明らかにされています。
腸管粘液バリアの破綻により、腸内細菌が身体の中に侵入しやすくなり、それが炎症の促進につながっていることが報告されています。
*腸管粘液バリア:腸管では、杯細胞から分泌されるムチン(腸管粘液の主成分)によって、腸内細菌と腸管の細胞が隔たれており、腸管バリアが構成されています。このバリア機能によって、腸内細菌が身体の中に侵入できないようになっています。
この論文の他にも、乳化剤の摂取によって、腸内細菌が変化することや、炎症を誘導するといった報告があり(3), (4)、今後も注目される分野になると思われます。
2)人工甘味料
肥満が世界的に増加する中、エネルギーのない人工甘味料がダイエット食品などに利用される頻度が増えてきました。減量のために、ダイエット食品を利用したことのある人もいるのではないでしょうか。
多くの人が減量を期待して摂取していた人工甘味料に対して、2014年のNatureに人工甘味料がむしろ肥満や耐糖能異常を引き起こすという衝撃的な論文が発表されました。(5)
この論文では、3種の人工甘味料(サッカリン、スクラロースおよびアスパルテーム)の摂取による腸内細菌叢の変化が、耐糖能異常を引き起こす要因であると報告しています。
では、IBDに対して人工甘味料はどのような影響があるのでしょうか。
甘味料の他に増粘剤などとして利用されているマルトデキストリンやスクラロースは腸炎モデル動物の腸炎を悪化させることが報告されています。(6), (7)
詳しい機序は不明瞭ですが、乳化剤と同じく腸管粘液バリア異常(6)や腸内細菌の性質変化(7)などが関与していることが示唆されています。
3 食品添加物のまとめ
このように動物実験では、食品添加物がIBDの病態や腸内細菌に影響するメカニズムが徐々に明らかになりつつあります。
しかし、日常的な添加物の摂取量を評価する技術が少ないため、人を対象とした研究には至ってないのが現状です。
今後、添加物の摂取量を正確に評価できるようになれば、病態に対する影響の解明がさらに進むかもしれません。
臨床研究における明確な影響は明らかではありませんが、少なくとも動物実験では悪影響を及ぼすという結果が得られているため、IBDでは食品添加物を多く含む加工食品や飲料水などは控えめにしておいた方が良いと思います。
また、人を対象とした研究は行われていないため、どれくらい添加物を食べたらIBD症状に繋がるかどうかはわかっていません。体格や年齢、腸内細菌叢の構成など様々な要因により変化するため、かなり個人差がある可能性もあります。
全ての添加物を制限してしまうとストレスの元になりますので、たまに添加物の含む加工食品や調味料などを利用するのは問題ないと思います。
しかし、摂取量が過剰にならないよう、“摂取量と摂取頻度”に気を付けるようにしましょう。
IBDと食品添加物の関係は、現在注目されている分野になりますので、今後も最新情報をジーケアで紹介していきたいと思います。
参考文献
(1) Roberts, Rushworth, Richman et al. Hypothesis: Increased consumption of emulsifiers as an explanation for the rising incidence of Crohn's disease. J Crohns Colitis. 7(4):338-41, 2013.
(2) Chassaing B, Koren O, Goodrich JK et al. Dietary emulsifiers impact the mouse gut microbiota promoting colitis and metabolic syndrome. Nature. 5;519(7541):92-6, 2015.
(3) Viennois, Merlin D, Gewirtz AT et al. Dietary Emulsifier-Induced Low-Grade Inflammation Promotes Colon Carcinogenesis. Cancer Res. 1;77(1):27-40, 2017.
(4) Chassaing B, Van de Wiele T, De Bodt J et al. Dietary emulsifiers directly alter human microbiota composition and gene expression ex vivo potentiating intestinal inflammation. Gut. 66(8):1414-1427, 2017.
(5) Suez J, Korem T, Zeevi D et al. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature. 9;514(7521):181-6, 2014.
(6) Laudisi F, Di Fusco D, Dinallo V et al. The Food Additive Maltodextrin Promotes Endoplasmic Reticulum Stress-Driven Mucus Depletion and Exacerbates Intestinal Inflammation. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 7(2):457-473, 2019.
(7) Nickerson KP, McDonald C et al. Crohn's disease-associated adherent-invasive Escherichia coli adhesion is enhanced by exposure to the ubiquitous dietary polysaccharide maltodextrin. PLoS One. 7(12):e52132, 2012.
執筆:杉原 康平(栄養学博士、管理栄養士)
監修:宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国管理栄養士)、堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)