専門家の記事

こんにちは、ジーケアの杉原です。


今回は、IBDの病態にも関わる腸内細菌について、特にプロバイオティクスとプレバイオティクスを中心に解説します。


巷でも腸内環境を整える“腸活”が流行っていますが、IBDの病気にも腸活が有用なのか、最新の科学的根拠も踏まえてご説明します。


IBDにおける腸活のポイント

・潰瘍性大腸炎では、特定のプロバイオティクスのみ臨床効果が認められる

・クローン病では、プロバイオティクスの臨床効果は認められていない

・健康維持のために、腸内環境は良好に保つ



1. プロバイオティクス・プレバイオティクスとは?

腸内環境を整えるうえで重要になるのが、プロバイオティクスとプレバイオティクスになります。それぞれを簡単に概説すると以下の通りになります。


1)プロバイオティクス

身体に有益な効果を与える生きた微生物、あるいはそれらを含む食品のこと

例:乳酸菌、ビフィズス菌、ヨーグルトなど


2)プレバイオティクス

乳酸菌やビフィズス菌などの有益な細菌の増殖を促し、腸内細菌叢のバランスを改善する食品成分のこと

例:オリゴ糖、一部の食物繊維(ペクチン、イヌリンなど)


身体に有用な善玉菌を摂取するプロバイオティクス、またその善玉菌の栄養源となるような食品を摂取するプレバイオティクスをバランスよく組み合わせたものがシンバイオティクスと呼ばれています。


腸内環境のバランスを良い状態に保つためには、これらのプロバイオティクスやプレバイオティクスが重要になります。



2. IBDではプロバイオティクスは必要なの?

IBDでは腸内細菌叢のバランスが乱れている(ディスバイオーシス)ことが昔から知られており(1)、腸内細菌を標的とした治療法が研究されてきました。


その中でも、プロバイオティクスは比較的受け入れやすい治療法であり、IBDでも盛んに研究が行われてきました。


欧州静脈経腸栄養学会のガイドライン(2)では、潰瘍性大腸炎とクローン病で推奨される内容が異なりますので、個別に解説していきます。


1)潰瘍性大腸炎

活動期の潰瘍性大腸炎では、プロバイオティクスによる寛解導入効果が認められており、大腸菌 Nissle 1917株あるいはVSL#3*というプロバイオティクスが推奨されています。(2)(注:現在日本では販売されていません)

*VSL#3:8種類の善玉菌(乳酸菌、ビフィズス菌、ストレプトコッカス属菌)の混合物


また、上記の2つのプロバイオティクスは寛解維持効果も認められており、潰瘍性大腸炎の寛解期においても推奨されています。(2)


残念ながら、その他のプロバイオティクスについては、明確な臨床効果が認められていないため、ガイドラインでは推奨されていないのが現状です。


2)クローン病

クローン病においてもプロバイオティクスの研究は行われてきましたが、現在のところ明確な寛解導入効果および寛解維持効果は確認されておらず、プロバイオティクス投与は推奨されていません。(2)


なぜ潰瘍性大腸炎ではプロバイオティクスが有効で、クローン病では有効でないのか、その詳細な機序はわかっておりません。今後、新たなプロバイオティクスが開発される可能性もありますので、さらなる研究が期待されます。



3. IBDではプレバイオティクスは必要なの?

次にプロバイオティクスのような善玉菌の栄養源となるプレバイオティクスとIBDについてご説明します。


動物実験では、食物繊維などを投与することにより、腸炎モデル動物の腸炎が抑制されることが報告されています。(3)-(5)


しかしながら、IBD患者さんを対象とした試験では、プレバイオティクスの明確な臨床効果はみられていません。


そのため、ガイドラインでは、プレバイオティクスのサプリメントの投与は、潰瘍性大腸炎、クローン病ともに適切でないと記載されています。(2)


ただし、野菜や果物などから摂取する食物繊維は十分量の摂取が必要であり、あくまでもサプリメントとしてのプレバイオティクスは必要ないということなのでご注意ください。



4. IBDとプロバイオティクス・プレバイオティクスのまとめ

IBDとプロバイオティクス・プレバイオティクスをまとめたのが以下の表になります。


*大腸菌 Nissle 1917株あるいはVSL#3のみ



小規模な研究では、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクスの投与が有効であったとの報告があります(6)ので、今後の研究次第では推奨内容も変わってくる可能性もあります。


また、残念ながら日本ではVSL#3やNissle 1917株は販売されていません。


これ以外のプロバイオティクスが全く効果がないわけではなく、あくまでもそれを試した研究がないということです。


腸内環境を良好に保つことは、健康維持のためにとても重要です。


わざわざ高いプロバイオティクスを買わずとも、プロバイオティクスとしてヨーグルト、プレバイオティクスとして果物を組み合わせたら、手頃なシンバイオティクスとして簡単に試せると思います。


また、腸内細菌を標的とした治療は個人差が強いことも知られていますので、自分に合った腸内環境を整える方法を探してみるのもいいかもしれません。


今後の研究によってより個人の腸内細菌のバランスに合わせた治療が開発される可能性もありますので、最近の情報をジーケアで更新していきたいと思います。



参考文献

(1) Ni J, Wu GD, Albenberg L et al. Gut microbiota and IBD: causation or correlation?  Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 14(10):573-584, 2017.

(2) Forbes A, Escher J, Hébuterne X et al. ESPEN guideline: Clinical nutrition in inflammatory bowel disease. Clin Nutr. 36(2):321-347, 2017.

(3) Hung TV, Suzuki T. Dietary Fermentable Fiber Reduces Intestinal Barrier Defects and Inflammation in Colitic Mice. J Nutr. 146(10):1970-1979, 2016.

(4) Macia L, Tan J, Vieira AT et al. Metabolite-sensing receptors GPR43 and GPR109A facilitate dietary fibre-induced gut homeostasis through regulation of the inflammasome. Nat Commun. 1;6:6734, 2015.

(5) Silveira ALM, Ferreira AVM, de Oliveira MC et al. Preventive rather than therapeutic treatment with high fiber diet attenuates clinical and inflammatory markers of acute and chronic DSS-induced colitis in mice. Eur J Nutr. 56(1):179-191, 2017.

(6) Furrie E, Macfarlane S, Kennedy A et al. Synbiotic therapy (Bifidobacterium longum/Synergy 1) initiates resolution of inflammation in patients with active ulcerative colitis: a randomised controlled pilot trial. Gut. 54(2):242-9, 2005



執筆: 杉原 康平(栄養学博士、管理栄養士)

監修: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国管理栄養士)、堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)

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