専門家の記事

執筆: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国管理栄養士)

監修: 杉原 康平(栄養学博士、管理栄養士)、堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)



こんにちは、ジーケア の宮﨑です。

今回は、私が所属していたミシガン大学をはじめアメリカで、過敏性腸症候群(IBS)患者さんや、IBS症状を有する炎症性腸疾患(IBD)患者さんに幅広く処方されている食事療法, 低フォドマップ(FODMAP)食について、具体的な方法と注意点などについてまとめさせていただきます。



まず低フォドマップ(FODMAP)食ってなに?IBDに対して効果があるの?などなどの疑問をお持ちの方は、「基礎編)ホットなトピック!IBD(クローン病/潰瘍性大腸炎)と低フォドマップ(FODMAP)食(https://gcarecommunity.com/article/168)」をご参照ください。


(1) 低フォドマップ(FODMAP)食はどのように実践したらいいの?

低フォドマップ(FODMAP)食は、ただのElimination Diet(極端な食事制限を目的とした食事)ではありません。あくまで消化器症状をコントロールするための食事療法と言われています。


よって、高フォドマップ(FODMAP)食 = 悪(一生食べてはいけない)とは限りません。低フォドマップ食を通して、自分の消化器症状の原因となるFODMAPの種類を特定します。その後、その自身の消化器症状を引き起こすFODMAPを避けつつ、徐々に栄養的にバランスが良い食事を摂ることによって、生活の質を上げていくことが最も重要になります。


またIBD患者では、寛解期に低フォドマップ食を実施することが一般的です。くれぐれも、活動期には低フォドマップ食を始めないようにし、また低フォドマップ食を実施中にIBDに関連する症状が悪化した、体重が減少した場合などは、すぐに担当の医師に相談しましょう。


では実際に低フォドマップ(FODMAP)食をどのように実践したらいいかについて説明させていただきます。


低フォドマップ(FODMAP)食は、以下の3つの段階に分けられます。



① フォドマップ(FODMAP)制限期間 (約2-4週間)

最初のフォドマップ(FODMAP)制限期間では、FODMAPを多く含む食品を極力摂取しないようにします。この期間を通して、FODMAPが自身の消化器症状に影響しているのかを確認します。


FODMAPが原因で消化器症状が起きている場合は、この制限期間で消化器症状の改善がみられます。1週間程度で症状の改善を実感できる患者さんもいれば、2-3週間後に症状の改善を実感し始める患者さんもおり、症状の変化が出るタイミングは人によって異なります。


1) フォドマップ(FODMAP)制限フェーズ中の食事






なお、上記の表に含まれない食材にフォドマップ(FODMAP)が含まれているかどうかを確認する方法は、オーストラリアにあるMonash Universityが開発・運営しているアプリhttps://itunes.apple.com/jp/app/monash-university-fodmap-diet/id586149216?mt=8

を活用する方法がお勧めです。


このMonash Universityは、低フォドマップ(FODMAP)食を提唱した大学で、現在も大学で各食事のFODMAP含有量の測定を行なっています。アメリカでも管理栄養士が自分が知らない食材のFODMAP有無を確認するためにこのアプリを使うことが一般的でした。英語のアプリですが、写真がついているため、使い勝手はそこまで悪くないと思います。ただ有料アプリとなります。


2) 制限フェーズの結果はどう判断・解釈するの?

2-4週間FODMAPを制限した結果、消化器症状(腹痛が治った、下痢の回数が減った等)の改善が実感できた場合は、次のステップであるチャレンジ期間に進みます。


もし、消化器症状の改善が実感できない場合は、FODMAPの制限を十分に行うことができなかった(FODMAPが含まれている食事を意図せず摂取してしまった等)、またはそもそもFODMAPが消化器症状の原因ではなかった可能性があります。


そこで、消化器症状の改善が見られなかった場合は、実際に低フォドマップ(FODMAP)食が実行できたのかを確認するために、5日間程度、日々の食事と消化器症状を記録します。手帳に記録しても、アプリなどに記録してもどちらでも構いません。そして5日間記録した後に、その記録を確認し、自分の食事にFODMAPが含まれていたかどうか、そしてそのFODMAPが消化器症状に繋がっているのかを確認します。


もし食事にFODMAPが含まれていた場合は、もう一度、制限フェーズを行う形になります。もし食事にFODMAPが含まれていなかった、もしくは消化器症状とFODMAPの関連が見つけられなかった場合は、FODMAPが消化器症状の原因・トリガーではなかった可能性があります。


例えば、これまでの研究において、IBS患者さんでは、約半数の患者で低フォドマップ食の効果があったことが確認されていますが、逆に約半数の患者には効果がありませんでした。4IBDについては、まだ研究がIBS患者ほど行われてはいませんが、IBS同様に低フォドマップ食で消化器症状の改善が見られない患者さんが一定の割合でいると考えられます。


消化器症状の改善が見られない場合は、薬物治療やストレスマネジメントなど別の治療アプローチを模索する形になります。



② フォドマップ(FODMAP)チャレンジ期間(約6-8週間)

このチャレンジ期間では、消化器症状の原因となる特定のFODMAPを見つけることが目的となります。最初の制限期間と同様にFODMAP制限を継続しつつ、それぞれのFODMAPを個別に少しずつ食べて自身の消化器症状を確認していきます。


個々のFODMAPは、化学構造や消化プロセスが異なるため、どのFODMAPが一番消化器症状に影響を与えるかは患者さん1人1人で異なります。


具体的には、以下のFODMAPグループを順番に試していきます。



食材の試し方は、一つの食材を選び、それを少量から徐々に増やしていくかたちをとります。例えば、ソルビトールが含まれるグループでは、1日目にピーチを半量、2日目にピーチを1個、3日目にピーチを1個というかたちです。


その途中で消化器症状が発生した場合は、消化器症状が発生するまでの量は、体が許容できることがわかります。また消化器症状が発生しなかった場合、試した量までは体が許容できることがわかります。


もし消化器症状が現れた場合は、その食事のチャレンジをストップし、消化器症状がなくなるまで(通常3-5日程度)低フォドマップ(FODMAP)食のみを継続し、その後次の食材を試します。


また同じフォドマップ(FODMAP)グループであっても食材によって消化器症状の有無が変わることもあります。ただリストにある全ての食材を試すのとかなりの時間がかかってしまうので、自分が普段食べていたもしくは食べたい食材から試されることをお勧めします。


最後に、チャレンジフェーズを続けていると、どの食材を試したかがわからなくなることがありますので、必ずどの食材を試し、その結果がどうだったのかについては記録を残しましょう。



③ 維持期間 (期間設定なし)

この期間は、チャレンジ期間で得られた結果を踏まえ、症状が悪化したFODMAPグループが含まれる食材のみを制限し、消化器症状を抑えつつ、栄養バランスの良い食事を摂ることによって、生活の質をあげることが目標となります。


栄養バランスの良い食事を取るコツとしては、チャレンジ期間で見つけた消化器症状のトリガーとなるフォドマップ(FODMAP)グループに分類される食材を避けつつ、低フォドマップ(FODMAP)食、消化器症状のトリガーではないFODMAPグループから、様々な種類の種類の果物や野菜を食べることとなります。


厳密に各栄養素の栄養摂取状況を確認したい場合は、マイフィットネスパル(https://www.myfitnesspal.com/ja/)やあすけん(https://www.asken.jp/)などのアプリを活用するのも一つの方法です。



(2) 低フォドマップ(FODMAP)食全体を通しての留意点 

最後に、低フォドマップ(FODMAP)食を行う上での留意点をまとめさせていただきます。


①適正な体重を維持する

低フォドマップ(FODMAP)食を実施して、体調が悪化した場合、体重が急激に減少した場合は、低ファドマップ食をやめ、担当の医師や栄養士に相談しましょう。


低ファドマップ(FODMAP)食は、制限食のため、体調が悪化するケースはあまりないと思いますが、極度の栄養不足や体重減少、ビタミン・ミネラル不足による疲れなどには注意が必要です。普段体重を意識されてない方は、こまめに体重を測ることをおすすめします。


②フォドマップ(FODMAP)制限期間を長期間続けない

全てのフォドマップを制限しながら、バランスの良い食事をとるのはとても難しいです。低フォドマップ食では、フォドマップ制限期間で止まらずに、チャレンジ期間、維持期間まで進みましょう。


IBD患者では自主的な食事制限により栄養素が不足することが多いので、消化器症状の引き起こすフォドマップのみを取り除くこと、そして栄養バランスの良い食事を継続することが重要になります。


また、腸内細菌の多様性を保つうえでも、様々な食物を摂取することが望ましいです。


以上、低フォドマップ(FODMAP)食の具体的なプロセスとその留意点について紹介させていただきました。


とても複雑な食事だと思いますので、不明点がある場合は、お気軽にご連絡いただければと思います。