専門家の記事

オメガ3とIBD
こんにちは。今回は質問を受けることが多い、脂質の中でも抗炎症作用などに注目が集まっている”健康的な”脂質である「オメガ3」について紹介いたします。
オメガ3とは?
オメガ3は、複数ある脂質の種類(脂肪酸)の一種です。魚の脂などに含まれる油で、DHA、EPAなどが広く知られています。また、オメガ3は、体で合成することができず、食べ物から摂取することが必要な必須脂質の一つです。
オメガ3は小腸で吸収されたのちに細胞の膜の材料となり、血管の収縮をサポートしたり、炎症を制御することを通して、動脈硬化や心臓疾患の予防につながると考えられています。そして、この炎症を抑える作用から、IBDへの効果も注目されています。
IBDでは、昔は特に寛解期も脂質の総量を制限することが重要と考えられていましたが、現在は脂質の総量の制限ではなく、適切な種類の脂質を選ぶことが重要と考えられています。そのような中、積極的な摂取が勧められているのがオメガ3です。
オメガ3とIBDの発症・増悪抑制の関係は?
オメガ3はIBDの発症リスクを抑制することが複数の研究で示唆されています。例えば、アメリカで行われた17万人が参加した研究(1)では、オメガ3の摂取量が多い人では、IBDの発症リスクが低かったことが確認されました。
一方、IBDの増悪抑制については、IBD患者を対象とした試験はありませんが、マウスを使った試験(2)などで、オメガ3のIBDに関する抗炎症作用が示されています。
オメガ3摂取のポイントは?
オメガ3は、先述したように魚の油に多く含まれていますので、意識して魚を摂取することが重要です。そのほかにはエゴマ油やアマニ油、くるみなどにもオメガ3が含まれます。
また、オメガ3は、その代謝の過程(オメガ3を体が活用するためのプロセス)で、別の脂肪酸であるオメガ6と同じ酵素を活用するため、オメガ3を体が有効に活用するためには、オメガ6が含まれる食物の摂取量を減らすことが重要と考えられています。
このオメガ6は、スナック菓子や加工食品などによく使われるコーン油や大豆油、マーガリン、牛肉・豚肉などに多く含まれています。
なお、過去の記事でもお伝えしましたが、オメガ3のサプリメントについては、IBD患者を対象とした複数の研究(3)が行われていますが、寛解維持効果は検証されていないので、現時点ではガイドライン(4)等においてもオメガ3のサプリメントは推奨されていません。
これらの研究を踏まえると、オメガ3の摂取のポイントは、オメガ6の摂取を抑えながらオメガ3が含まれる魚など(サプリメントではなく)を積極的に摂取することが重要と考えられます。
何かがっつりとしたものを食べたい気分の時は、肉料理ではなく、ぜひ魚料理を選んでみてはいかがでしょうか。
参考文献
(1) Ananthakrishnan, A.N.; Khalili, H.; Konijeti, G.G.; Higuchi, L.M.; de Silva, P.; Fuchs, C.S.; Chan, A.T. Long-term intake of dietary fat and risk of ulcerative colitis and Crohn’s disease. Gut 2014, 63, 776–784.
(2) Ishida T, Yoshida M, Arita M, Nishitani Y, Nishiumi S, Masuda A, et al. . Resolvin E1, an endogenous lipid mediator derived from eicosapentaenoic acid, prevents dextran sulfate sodium-induced colitis. Inflamm Bowel Dis. (2010) 16:87–95.
(3) Lev-Tzion, R.; Griffiths, A.M.; Leder, O.; Turner, D. Omega 3 fatty acids (fish oil) for maintenance of remission in Crohn’s disease. Cochrane Database Syst. Rev. 2014, 2, CD006320.
(4) Forbes A, Escher J, Hébuterne X et al. ESPEN guideline: Clinical nutrition in inflammatory bowel disease. Clin Nutr. 36(2):321-347, 2017.