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みなさんこんにちは。今回は、IBD患者さんの間で話題になることが多いグルテンフリー食について紹介します。



グルテンフリー食とは?

グルテンとは、小麦、ライ麦、大麦などに含まれるたんぱく質の一種です。小麦に含まれるグルテニン(glutenin)とグリアジン(Gliadin)というたんぱく質に水を加えてこねることで、グルテンになります。グルテンには粘度と弾性が強いという特性があり、様々なお菓子や料理に使われています。


グルテンフリー食とは、このグルテンが含まれない食品・食事のことを指します。


グルテンフリー食の中心は、小麦、ライ麦、大麦が含まれない食品です。またパスタなどについても”グルテンフリー”と記載のあるものはグルテンが製造工程などで除かれていてグルテンが含まれていません。


一方で、グルテンは添加物などにも広く使われているため、完全に取り除くことが難しいたんぱく質と言われています。レストランなどでは小麦などが含まれていなくても、調理の過程などでグルテンが混ざることもあります(例えば別の料理に使った調理器具を使った際にグルテンが混じってしまうなど)。


よって、小麦などが含まれていないようにみえても、グルテンフリーと書かれていない場合にはグルテンが含まれている場合があります。


 

グルテンフリー食と関係がある疾患

グルテンフリー食は、もともとはセリアック病 (Celiac Disease)患者や小麦アレルギー患者を対象として普及し、その後、グルテン不耐症/過敏症 (Gluten Sensitivity)が注目されるようになり、いわゆる”流行りの健康食”として広くアメリカで普及しています。


セリアック病(Celiac Disease)

セリアック病とは、グルテンに関する遺伝性の自己免疫性の疾患です。グルテンを摂取すると、腸粘膜に炎症が生じたり、腸管にある絨毛と呼ばれるひだのような細胞が萎縮します(1)。その結果、下痢などの消化器症状が現れたり、あらゆる栄養素の腸管からの吸収ができなくなり栄養不良に繋がります。


セリアック病の海外の発症率は、100人に1名程度であり女性に多いと言われています(2)。日本ではまだ患者数などは把握されていません。セリアック病の患者は、生涯にわたりグルテンをしっかりと食事から取り除くことが必要であり、グルテンフリー食が必須となります。

 

グルテン不耐症/過敏症 (Non-celiac Gluten Sensitivity)

近年注目を集めているのがグルテン不耐症/過敏症です。グルテン不耐症/過敏症は、セリアック病、小麦アレルギー以外の方で、グルテンが含まれる食事を食べると、腹痛・下痢などの消化器症状が生じる疾患/症状です(3)。


しかし、まだ明確な診断基準や診断方法・マーカーなどがないことに加え、過敏性腸症候群(IBS)との症状のオーバーラップ多く、解明されていないことが多いです。今後の更なる研究が期待されています。


 

グルテンフリー食のIBDに対する科学的なエビデンス

IBD患者の間で、グルテンフリー食は人気があるものの、IBDに対する科学的なエビデンスは限られているのが現状です。これまで、複数の動物を用いた試験で、グルテンが腸の炎症に繋がることが示唆されてきましたが、IBD患者に対する臨床試験は行われていません(4)。


なお、参考までに、IBSに対するグルテンフリー食の研究にも簡単に触れたいと思います。これまでに行われてきた複数の研究をまとめて解析した研究では、グルテンフリー食によりIBSの総合的なスコアの改善は示唆されたものの、統計学的に有意な改善は認められませんでした(5)。


以上のように科学的根拠が限られていることから、一般的に、医師や管理栄養士から、IBD患者やIBS患者に対してグルテンフリー食が勧められることはほとんどありません。


 

グルテンフリー食に関する留意点

グルテンフリー食を実施される場合に懸念されることは、栄養バランスの良い食事ができなくなる可能性です。


グルテンは、小麦などに加え、前述したように様々な料理や食品に含まれていることから、それらを取り除くことで結果的に体にとって重要なビタミンやミネラル、食物繊維が十分に摂取できなくなる可能性があります。


特に全粒パンやその他の全粒製品にはビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富に含まれており、栄養価的には最も推奨される食品群の1つとなります。


セリアック病や小麦アレルギーがある、もしくはグルテンに含まれるフルクタンが消化器症状のトリガーになる場合を除き、過度にグルテンを制限することには注意が必要です。


もし不明点等あればお気軽にご質問頂けましたらと思います。



参考文献:

  1. Caio G, et al. Celiac disease: a comprehensive current review. BMC Med. 2019 Jul 23;17(1):142.
  2. Ludvigsson JF, Murray JA. Epidemiology of Celiac Disease. Gastroenterol Clin North Am. 2019 Mar;48(1):1-18. 
  3. Barbao MR, et al. Recent advances in understanding non-celiac gluten sensitivity. F1000Research. 2018:7. 
  4. Colombel JF, et al. AGA Clinical Practice Update on Functional Gastrointestinal Symptoms in Patients With Inflammatory Bowel Disease: Expert Review. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019 Feb;17(3):380-390.e1.
  5. Dionne J, et al. A Systematic Review and Meta-Analysis Evaluating the Efficacy of a Gluten-Free Diet and a Low FODMAPs Diet in Treating Symptoms of Irritable Bowel Syndrome. Am J Gastroenterol. 2018 Sep;113(9):1290-1300.