専門家の記事

みなさんこんにちは。

 

以前の投稿でGコミュニティの宮﨑さんから患者中心の医薬品開発について紹介があったことを覚えていますでしょうか。また私の実際のIBD患者さんの診療でも、新薬の開発に関してはご質問をいただくことが多いです。

 

そのため今回は、IBD領域における新薬の歴史を簡単にご紹介したいと思います。

 


1. 日本における生物学的製剤の歴史

 

IBDでは、生物学的製剤は1998年に米国においてクローン病に対して抗TNF製剤であるレミケードR(infliximab)が承認され、その後に日本においても2002年にクローン病に対して承認され、2010年に潰瘍性大腸炎に対して承認となりました。(1)

 

ちなみにこのinfliximabは、1993年に米国の会社から現在の田辺三菱製薬が導入(日本で開発・販売する権利を得ること)し、約10年という長い期間を経て販売に至りました。この時に慢性疾患に対して使用される初めての日本での生物学的製剤となったため厚生労働省から厳格な審査があったとのことでした。(2)

 

その後は皆さんもご存知の薬剤があるかもしれませんが、以下のように様々な生物学的製剤が承認されていきました。

 

ヒュミラR (2010年クローン病、2013年潰瘍性大腸炎)

ステラーラR (2017年クローン病、2020年潰瘍性大腸炎)

シンポニーR (2017年潰瘍性大腸炎)

ゼルヤンツR (2018年潰瘍性大腸炎)

エンタイビオR(2018年潰瘍性大腸炎、2019年クローン病)

 

IBDではこれらの生物学的製剤の普及により病状が安定する患者さんが増加し、これまでよりも生活の質(Quality of life: QOL)が向上することにつながりました。

 


2. さらなる新薬の必要性は?

 

しかし現在もおよそ30%の患者さんが、抗TNF製剤で十分に効果が得られず、また効果が得られた患者さんでも約10%の患者で毎年抗TNF製剤の効果が消失していくと言われています。(3)

 

患者さんの中にも、現在使われている生物学的製剤の効果がなくなったらどうしようと不安に思われている方も多いのではと思います。

 

さらに現在のIBDの治療薬は、免疫力の低下に伴う感染症や癌の発生などの副作用との関連が指摘されていることから、今後はより副作用が少ない新薬の開発が必要です。

 


3. さいごに

 

現在もIBD領域では、様々な新薬の開発が日本や海外で進んでいます。もちろん今は新型コロナウイルス感染症の流行による影響を受けているものもあるかもしれません。

 

それでも患者さんの声が反映され、患者さんのQOL向上につながるような新薬の開発が期待されます。また私たちはGコミュニティを運営するジーケアとしても、患者さんが新薬開発へ参画し、患者中心の新薬開発が実現されるように、これからできることを模索していきたいと思います。

 

 

<参考>

(1)内山和彦ほか.炎症性腸疾患治療の最前線 :新たな転換期を迎えた生物学的製剤. 京府医大誌 128(4),245~ 254,2019.

(2)田辺三菱製薬の価値創造ヒストリー https://www.mt-pharma.co.jp/ir/annual/pdf/CR_2015_jp_04.pdf

(3)Hazel K, O’Connor A. Emerging treatments for inflammatory bowel disease. Ther Adv Chronic Dis. 2020; 11.