専門家の記事

こんにちは、ジーケアの杉原です。

今回は潰瘍性大腸炎の食事について解説します。


安倍首相の退任に伴い、インターネットでは潰瘍性大腸炎の食事について色々な情報が出回っていますね。

これまでにIBDの食事については別の記事にまとめていましたが、今回は潰瘍性大腸炎に焦点を当てて解説していきます。

少し文章が長いので、結論だけ知りたい方は一番下のまとめを見ていただければ幸いです。


クローン病と同様に、潰瘍性大腸炎でも症状が悪化している活動期と安定している寛解期では、推奨される食事内容が異なります。



活動期の食事

炎症が起きている活動期では、腸管の負担を避け安静にするために潰瘍性大腸炎でも低脂質・低残渣食が望ましいとされています。

そのため、脂質を多く含む食品や繊維質な食品は活動期は避けたほうが良いと考えられています。



寛解期の食事

体調が悪い時期に食事制限を必要があるのは納得がいくと思うのですが、問題は症状が落ち着いている寛解期にも食事制限が必要かどうかという点ですね。


結論から言いますと、寛解期の潰瘍性大腸炎では特に食事の制限は必要しないと栄養のガイドライン*で示されています。(*静脈経腸栄養ガイドライン第3版)


そのため、寛解期、特に内視鏡的寛解が得られているような安定している時期であれば、潰瘍性大腸炎では無理に食事制限をしなくても良いと考えられます。


では寛解期の患者さんで、再燃を予防するために食べるものに気を遣っているけど意味がないのかと言われると、全く意味がないということはないと思います。


ガイドラインではこれまでの臨床研究の結果をもとに、推奨される内容が決められますが、潰瘍性大腸炎の食事について研究した報告は非常に少ないです。


その数少ない研究の中には、特定の食品や栄養素が潰瘍性大腸炎の再燃に関わっていることが報告されています。

例えば、2004年に報告された英国の研究では、赤身肉や加工肉の摂取が潰瘍性大腸炎の再燃のリスクをあげる可能性が報告されています。(PMID: 15361498)


このような報告はいくつかありますが、科学的根拠としてはレベルが低く、患者さんに勧めるようなほどではないため、ガイドラインでは食事制限は必要ないと考えられています。


科学的根拠が低い理由の一つに、食事に関する研究の難しさにあると思います。

なぜ難しいのか詳しく書こうと思うとかなり長くなってしまうので省略しますが、研究によって科学的に食事の効果を証明するのが難しいため、食事に関する研究はあまり進んでいないのが現状です。



個人的な意見になりますが、食事制限という言葉自体があまり好きではありません。

食事制限というと、自分の好きなものが食べられないなど、ネガティブなイメージが強いですよね。

反対に、食事制限が必要ないと言われると、何でも好きなだけ食べて良いんだと考える人もいると思います。

しかし、管理栄養士の立場からすると食事制限が必要ない=健康な人と同じような食事を食べても大丈夫という意味であり、何でも好き勝手食べても大丈夫という意味ではありません。


実際、最近発表されたThe International Organization for the Study of Inflammatory Bowel Disease (IOIBD)の食事ガイドラインでは、潰瘍性大腸炎では魚からのn-3系脂肪酸の摂取を増やす、赤身肉(牛肉や豚肉など)や加工肉、乳脂肪、ココナッツ油、食品添加物などの摂取を減らすよう推奨しています。(PMID: 32068150)

ただし、このガイドラインでも科学的根拠としてはそこまで強くないことがlimitationとして挙げられています。


上記のような食品は、身体にも良くなさそうなものが多く、健康的な食生活をしている人はたくさん食べるものではないですよね。

このガイドラインでも牛肉などを食べてはダメと言っているわけではありません。あくまでも減らすようにするということであり、そのためには摂取する量と頻度を考える必要があります。


ありきたりな言葉ですが、食事はバランスが大事です。

普段から健康的な食事に気を遣っていれば、たまにある飲み会などで無茶しても大丈夫かもしれませんが、普段から無茶な食生活を続けていれば病気が悪化するリスクが上がるかもしれません。


もちろん人によっては、食事を何より重要視していて自分の好きなように食べたいという患者さんもいると思います。現在の科学的根拠からはそれを完全に否定することはできませんので、患者さんが望むのであればそれでも良いと思います。


反対に、少しでも再燃のリスクを減らしたくて、食事管理でもできることはやりたいという患者さんもいると思います。そのような方は、特定の食品を制限するのではなく、野菜や果物、魚、大豆製品を中心にした健康的な食生活を目指すと良いと思います。


科学的根拠はまだありませんが、健康的な食事が潰瘍性大腸炎の再燃を予防する可能性はあり得ると思います。

現在、潰瘍性大腸炎を対象に健康的な食事の代表格である地中海食などの研究が予定されており、その研究結果が楽しみです。


文章がかなり長くなってしまいましたが、潰瘍性大腸炎の食事の研究は少なく、まだまだわからないことがいっぱいです。

今後新しい研究が発表されましたら、ジーケアの方でも紹介していきたいと思いますので、今後もジーケアをよろしくお願いします。



まとめ

・活動期の潰瘍性大腸炎では、低脂質・低残渣食が望ましい

・寛解期の潰瘍性大腸炎では、食事制限は必要ないが、何でも好き勝手に食べていいわけではなく、健康的な食事が望ましい