今回は炎症性腸疾患の治療において、最も身近で、かつ大切な薬を紹介したいと思います。
それはペンタサ®・アサコール®・リアルダ®・サラゾピリン®と呼ばれる薬が該当する「5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)」です。
潰瘍性大腸炎とクローン病の両方に対して5-ASA製剤は使用されます。
例えば潰瘍性大腸炎の活動期の症状(血便、下痢、 腹痛など)を抑え、さらに再燃を予防するための寛解維持療法としても広く用いられています。
本日はこの5-ASA製剤の概要を紹介したいと思います。
1. 5-ASA製剤はどうやって効くの?
本製剤に含まれている「メサラジン(別名:5-アミノサリチル酸(5-ASA))」が炎症を抑えてくれます。
なぜ、メサラジンが炎症を抑えることができるのかは、完全には解明されていませんが、①活性酸素除去、②ロイコトリエンB4の産生抑制などが指摘されています。
(少し難しいので、読み飛ばしていただいても構いません。)
① 活性酸素の除去による炎症の進展や組織障害の抑制
炎症細胞からは、炎症を更に悪化させ、組織に障害を及ぼす「活性酸素(フリーラジカル)」と呼ばれる物質が放出されます。
メサラジンはこの活性酸素を除去すると考えられています。
② ロイコトリエンB4の産生抑制による抗炎症効果
炎症反応の重要な経路の一つであるアラキドン酸カスケードを阻害し、白血球遊走・活性化、血管透過性亢進をするロイコトリエンB4の産生を抑制することで、炎症反応を抑えると考えられています。
2. どうして安定している寛解時にも服用し続けなくてはいけないの?
たとえ寛解期であっても5-ASA製剤は中止せずに服用し続ける必要があります。長期間の寛解維持と、大腸癌の発症リスクを減らすためにとても重要なことです。
次のグラフをご覧下さい。これは5-ASA製剤の服薬状況を2年間調査した結果です。
指示どおりにきちんと服薬を守っていた患者さん(青:服薬遵守群)の約90%が寛解を維持できている一方で、服薬を守っていなかった患者さん(赤:服薬非遵守群)では約40%と低く、60%の患者さんが再燃しています。
また5-ASA製剤の服薬の継続は、潰瘍性大腸炎に合併する大腸癌発症のリスクを低下させるという報告もありますのでとても大切です。
活動期と異なり、症状が出ていない寛解期はどうしても薬を飲み忘れてしまいがちですが、再発と大腸癌を予防するためにもしっかりと服薬をしていくことが大切です。

出典:難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(鈴木班)
3. さいごに
本日は5-ASA製剤の概要をご紹介しました。前述のように5-ASA製剤にはいくつかの種類がありますが、それぞれの製剤には特徴があり「腸のどこで薬を効かせるか」という目的で様々な工夫を凝らして薬が開発されています。
次回はそれぞれの薬の違いをご紹介していきたいと思います。
執筆者:堀田 伸勝(消化器内科医・医学博士)