専門家の記事

こんにちは、ジーケアの杉原です。

「IBD NEWS」では、炎症性腸疾患(IBD)の最新研究を紹介しています。

 

今回は、Gastroenterologyという雑誌に発表された、IBD患者さんを対象とした心理学的アプローチの効果を検証した論文をご紹介します。

 

IBD患者さんの中には、精神的なストレスを抱えている方が多いのではないでしょうか?


トイレが近くて外出が怖い、好きなものを食べられない、周りの人の病気への理解が得られないなど、IBDではストレスのもとになりそうなものがたくさんありますよね。

 

実はこうしたストレスは消化器症状とも関連しているんです。このような腸内環境と脳・中枢神経機能との関係は“脳腸相関”と呼ばれており、現在注目されている研究分野になります。

 

そのため、欧米ではストレスマネジメントの一環として心理療法がIBD患者さんでも行われています。


今回ご紹介する論文は、心理療法の中でもアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)と呼ばれる心理学的アプローチの効果をランダム化比較試験で検証した論文になります。

 

アクセプタンス(Acceptance)とは、「受け入れる」という意味で、病気による苦痛や悩みなどを排除するのではなく、それをありのまま受け入れるように認識を変えていくものになります。

 

一方、コミットメント(Commitment)とは、約束や公約など様々な意味がありますが、ここでは,「アクセプタンスで受け入れた自分の価値観(軸)に沿った目標を短期、中期、長期で定め、行動していく」という意味になります。

 

ACT(Acceptance and Commitment Therapy)は1960年代に米国にて起案され、1999年に今の形の原型が考案された最近注目されているセラピーの一つです。


CBT(Cognitive Behavior Therapy)とよく比較される場合も多いですが、CBTは患者さんの考え方(思考癖)を変え、行動を変えていくという自主性の変化に重きを置いているのに対し、ACTは元々本人に備わる自主性を発見し、思考癖と適度な距離感を保って共存していくという違いがあります。


どちらが優れているかということではなく、患者さんの症状や性格、環境等によってカウンセラーは最も効果が期待できるセラピーを選択します。

 

この論文では、122名の寛解期および症状の安定している活動期のIBD患者さんを対象とし、通常の治療を行う群(コントロール群)とアクセプタンス&コミットメント・セラピーを実施する群に分けて評価しています。


アクセプタンス&コミットメント・セラピーは週に一回、合計で8回実施し、その後ストレスなどの指標や病気の疾患活動性の指標などを評価しています。

 

アクセプタンス&コミットメント・セラピーの介入効果をまとめると、以下の通りになります。


・   アクセプタンス&コミットメント・セラピー介入群では、ストレスの指標が介入後8週目で39%、20週目で45%減少した。一方、コントロール群では8週目で8%、20週目で11%減少しており、アクセプタンス&コミットメント・セラピー介入群で有意にストレスの指標が減少した。


・   アクセプタンス&コミットメント・セラピーは、知覚化されたストレスやうつの指標、QOLを改善させたが、不安の指標や疾患活動性には有意な変化が見られなかった。

 

これらの結果から、IBD患者さんに対するアクセプタンス&コミットメント・セラピーは、ストレスやうつ、QOLの改善に有効であることが示されました。

 

今回は短期間の試験であったため、IBDの病気自体には影響は見られませんでしたが、今後は長期的な試験で疾患活動性に対する影響をみる必要があると筆者らは述べています。

 

日本ではIBDに対する心理療法は一般的ではないかもしれませんが、今後は心理療法も治療の一つとなる日も近いかもしれないですね。

 

ジーケアでは臨床心理学が専門の小田桐さんがサポートメンバーとして加わって頂いています。


これから心理療法に関する情報も公開していこうと思いますので、今後ともジーケアをよろしくお願いします。


 

文献

1. Wynne B, McHugh L, Gao W et al. Acceptance and Commitment Therapy Reduces Psychological Stress in Patients With Inflammatory Bowel Diseases. Gastroenterology. 2019 Mar;156(4):935-945.e1

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30452919

 

2. Hayes SC, Luoma JB, Bond FW, et al. Acceptance and Commitment Therapy: Model, processes and outcomes. Behav Res Ther. 2006 Jan;44(1):1-25.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16300724