今回は、消化器系のジャーナルの中で最もインパクトの高いGastroenterologyという雑誌に最近発表された赤身肉・加工肉の制限がクローン病の再燃率に及ぼす影響を検証した論文をご紹介します。
食事がクローン病の発症や病気の進展に関与することは様々な研究で明らかにされており、特に飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸などの脂質との関係が注目されています。
今回ご紹介する論文は、寛解期のクローン病患者さんに対して赤身肉や加工肉の摂取を実際に減らすよう指導した場合に、病気の再燃率に影響するかを評価したランダム化比較研究になります。
具体的には、以下のようにグループを分けて比較を行っています。それぞれの食事介入後49週間目にshort Crohn’s Disease Activity Indexというクローン病の活動係数を用いて、クローン病の病状を調査しています。
1)高赤身肉・加工肉摂取群
赤身肉や加工肉を、週に2サービング以上摂取するよう指導
2)低赤身肉・加工肉摂取群
赤身肉や加工肉を、月に1サービング以内にするよう指導
*1サービング=3 oz(85 g)
食事指導後の食事調査によると、高赤身肉・加工肉摂取群では100%の患者さんが基準摂取量を摂取できており、低赤身肉・加工肉摂取群では約60%の患者さんが基準の摂取量を守ることができていました。
実際に食事介入49週間後のクローン病の再燃率を比較したところ、この2群間で統計的に有意な差は見られず、赤身肉や加工肉の摂取がクローン病の再燃に影響しないことが示されました。
以上の結果から、赤身肉や加工肉の少ない食事は健康維持のためには重要であるかもしれないが、少なくともクローン病の病気そのものを悪化させることはない、と筆者らは結論付けています。
しかし、この研究では、低赤身肉・加工肉摂取群のアドヒアランスが良くなかったことが問題点の一つとして挙げられています。また、長期に赤肉・加工肉を摂取した場合に、寛解維持にどのような影響があるのかもわかりません。
もう一つ気をつけたい点として、赤身肉・加工肉の摂取を制限したことにより他の悪影響を与える食べ物の摂取が増えている可能性も考えられます。
実際に、低赤身肉・加工肉摂取群でも脂質の摂取量がエネルギー比で30%以上(基準は20-30%)あるため、赤身肉などを制限しているにも関わらず、日本人の基準よりかなり多い量の脂質を摂取しています。
やはり単一の食品の制限だけでは再燃の予防は難しく、全体の食事バランスを考える必要があるのかもしれません。この論文の結果を全て鵜吞みにするのは難しいかもしれませんが、あまり気にしすぎるのもストレスになりますので、寛解期であればお肉をたまに食べるのは問題ないのかもしれませんね。
次回のIBD NEWSでは、クローン病の食事療法が病気の再燃に及ぼす影響を検証した論文を紹介しますので、食事療法に興味のある方は是非読んでいただければと思います。
文献
Albenberg L, Brensinger CM, Wu Q et al. A Diet Low in Red and Processed Meat Does Not Reduce Rate of Crohn's Disease Flares. Gastroenterology. 2019 Jul;157(1):128-136.e5.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30872105