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IBD治療の基本薬:5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)②
前回は、5-ASA製剤が炎症性腸疾患に効くメカニズムなどを紹介しました。
(>前回の記事はこちら(https://gcarecommunity.com/article/99)です。まだ前回の記事をお読みでない方は、まずそちらから目を通していただけると理解しやすいと思います。)
皆さんご存知かもしれませんが、5-ASA製剤(主成分のメサラジンを含む薬のこと)は、「サラゾピリン®、ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®」と4種類あります。
本記事では、この4種類の違いを中心に解説していきたいと思います。
1. 5-ASA製剤が効果を発揮するために必要なことは?
5-ASA製剤が効果を発揮するためには、薬が直接に腸の粘膜に接触する必要があります。
そのためより高い効果を発揮させるためには、「より多くの薬を腸の粘膜に届ける」ことが大切です。
その観点から5-ASA製剤のうち比較的新しいアサコール®、リアルダ®などは様々な工夫が行われ、より改良された薬となっています。
2. 各5-ASA製剤の違い
5-ASA製剤の内服薬は4種類あり、それぞれに特徴があります。
ポイントは、5-ASA製剤の効果の元になる成分であるメサラジンを「目的とする腸の粘膜に薬剤を届ける工夫がされている」ことです。
次にそれぞれの薬剤の特徴をご紹介します。
①サラゾピリン®
メサラジンとスルファピリジンという物質が合わさった薬です。(いわゆる「プロドラッグ」と呼ばれる類です。)
約1/3が小腸で吸収され、残りが大腸に到達し大腸内の腸内細菌によりスルファピリジンとの結合が外れ、メサラジンが放出され腸の粘膜に作用して効果を発揮します。
一方、この腸内で外れたスルファピリジンが大腸から体に吸収されることで、皮疹、日光過敏、肝障害、精子数の減少による男性不妊といった副作用を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
IBDでは潰瘍性大腸炎、クローン病ともに使用されます。
②ペンタサ®
サラゾピリン®の副作用を防ぐためにスルファピリジンを除いた、メサラジンのみの製剤です。
そのままではせっかく服用したメサラジンが小腸上部で吸収されてしまうので、メサラジンをエチルセルロースという物質でコーティングすることで、溶けるスピードを遅くしています。
そのため服用後に小腸と大腸の広い範囲でメサラジンが徐々に放出されるようになっています。
このように時間の経過とともに効果を発揮するため「時間依存性メサラジン」とも言われます。
IBDでは潰瘍性大腸炎、クローン病ともに使用されます。
③アサコール®
高容量のメサラジンを大腸で放出させるために改良された薬です。
これは腸内のpH差を利用(酸性・アルカリ性・中性といった違いを利用しているという意味です)した製剤です。
メサラジンをEudragit®-S(Evonik Industries、Essen、Germany)という物質でコーティングすることにより、 pH が7以上となる回腸末端から上行結腸にかけてコーティングに亀裂が生じ、メサラジンが放出されるようになっています。
そのため「pH依存性メサラジン」と呼ばれます。IBDでは潰瘍性大腸炎のみで使用されます。
④リアルダ®
こちらも高容量のメサラジンを大腸で放出させるために改良された薬です。
マルチマトリックス(MMX)という物質の中にメサラジンを混在させ、それをpH7以上で溶解する物質でコーティングすることにより、回腸末端から上行結腸にかけてメサラジンが放出されるようになっています。
さらにこのメサラジンはゆっくり放出されるため、口から最も遠い大腸である直腸まで必要な量のメサラジンを到達させることができるという特徴もあります。
IBDでは潰瘍性大腸炎のみで使用されます。
3. 内服薬以外の5-ASA製剤
5-ASA製剤は、内服薬の他に肛門から直接薬剤を入れる坐剤・注腸もありますね。
(ペンタサ®注腸、ペンタサ®坐剤、サラゾピリン®坐剤)
これらは直腸炎型の潰瘍性大腸炎のみでなく、全大腸炎型などの場合でも内服薬が届きにくいS状結腸や直腸にメサラジンを届けるために内服薬と併用して使用されることも多いです。
4. 5-ASA製剤を使用する上で最も大切なことは?
このように各種5-ASA製剤は「主成分であるメサラジンをいかに腸の粘膜に届けるか」という目的のため様々な工夫が行われて開発されたものです。それではこの5-ASA製剤を使用する上で最も大切なことは何でしょうか?
それは日々の決められた薬をしっかりと、忘れることなく服用し続けることです。せっかくの素晴らしい薬も、飲み忘れてしまっては効果を発揮することができません。ぜひいつもの5-ASA製剤を飲む前にその薬の特徴を思い出して、「しっかりと大事な腸の粘膜まで届け」と意識してみてはいかがでしょうか。