専門家の記事

こんにちは、ジーケアの杉原です。

「IBD NEWS」では、炎症性腸疾患(IBD)の最新研究を紹介しています。

 

今回は、Gastroenterologyという雑誌に発表された、小児クローン病患者さんに対する食事療法と経腸栄養療法の併用効果を検討した論文をご紹介します。

 

この研究は、食事療法がクローン病の寛解維持率に影響したことを証明した数少ない研究の一つとなり、今後さらにクローン病に対する食事療法の研究が進むきっかけとなりえる価値の高い研究です。

 

 

現在、欧米のガイドラインでは、小児クローン病の寛解を誘導のための治療法として、Exclusive enteral nutrition (EEN; 排他的経腸栄養療法)という経腸栄養療法が積極的に行われています。

 

このExclusive enteral nutritionは、通常の食事は全く摂取せずに、経腸栄養剤のみを数週間摂取する経腸栄養療法になります。

 

小児クローン病患者に対しては効果的であるとの研究が多く、寛解誘導効果はステロイド療法に匹敵するとも報告されています。

 

しかしながら、経腸栄養剤のみを摂取する生活を継続するのは難しく、治療に対する受容性に課題があるとされています。

 


今回ご紹介する論文は、EENのように全てのエネルギーを経腸栄養剤から摂取するのではなく、経腸栄養療法と食事療法を併用し、介入後の寛解誘導および寛解維持効果をランダム化比較試験で検証した論文になります。


つまり、より現実的な食事療法と言えるかと思います。

 

この論文で行われている食事療法は、「Crohn’s Disease Exclusion Diet; CDED」と呼ばれており、Exclusion(除外)という意味の通り、クローン病に悪影響を及ぼすとされる特定の食品を制限した食事療法になります。

 

具体的には、動物性脂肪・小麦・乳製品・赤身肉・加工肉・食品添加物(乳化剤・マルトデキストリン・カラギーナン)などを制限しています。

 

この試験は2つのステージに分かれており、それぞれの群の治療を6週間実施後に寛解誘導率の評価、またそこからさらに6週間経った後に寛解維持率を評価しています。

 

食事療法と経腸栄養療法の併用群では、前半の6週間はエネルギー摂取量の半分ずつを食事と経腸栄養剤から摂取し、後半の6週間は25%を経腸栄養剤から摂取、残りの75%を食事から摂取しています。


食事は前半6週間で制限が厳しく、後半6週間はすこし緩やかな制限になっています。

 

一方、コントロール群では、従来の治療法である全てのエネルギーを経腸栄養剤から摂取するEENを前半の6週間に実施し、後半の6週間はもう一方の群と同様に、25%を経腸栄養剤から、75%を食事から摂取しています。

 

コントロール群では、食事について特に制限はなく、好きなものを自由摂取にしています。

 

この介入結果を簡単にご説明すると以下の通りになります。

 

・6週後に寛解になった患者さんの割合は、コントロール群と食事療法・経腸栄養療法併用群で統計的な有意な差は見られなかった(コントロール群:59% vs 併用群:75%, P = 0.38)

 

12週後に寛解であった患者さんの割合は、コントロール群に比べ食事療法・経腸栄養療法併用群で有意に高かった(コントロール群:45.1% vs 併用群:75.6%, P = 0.01)

 


以上の結果から、従来のスタンダードな治療であるEEN療法と比べ、食事療法と経腸栄養療法の併用は同等の効果がみられることがわかりました。

 

また、長期的にみると食事療法と経腸栄養療法の併用群の方が寛解を維持できている人の割合が高かったため、小児クローン病患者では経腸栄養療法だけでなく、食事内容が寛解維持に重要であることが示唆されました。

 

この論文の食事療法では、様々な食品を制限しているため、どの食品が大事なのかというのはわかりませんでした。

 

また、内視鏡の検査は実施していないため、内視鏡的な寛解が評価されていないのが問題点としてあげられています。

 

しかし、食事療法がクローン病の寛解維持率に影響したことを証明できた研究は少なく、この研究を機に、食事に関してもっと注目が集まるかもしれないですね。

 

食事制限というと、もう普通の食生活はできないんだと負のイメージが強いかもしれませんが、使用する食材・調理法を工夫すれば十分満足できる生活が送れると思います。

 

Gコミュニティに参加いただいている患者さんの食事をGコミュニティの患者の広場内にある「患者さんのお料理・お弁当の部屋」で公開させて頂いていますので、まだ見ていない方は是非ご覧ください。

 

また、是非皆様の普段食べている食事を投稿して頂いて、充実したコミュニティになるようご協力頂けましたら幸いです。

 

ジーケアでは今後もIBD研究の最新情報を発信していきますので、これからもジーケアをよろしくお願いします。

 

文献

Levine A, Wine E, Assa A et al. Crohn's Disease Exclusion Diet Plus Partial Enteral Nutrition Induces Sustained Remission in a Randomized Controlled Trial. Gastroenterology. 2019 Jun 4.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31170412