専門家の記事

こんにちは、ジーケアの堀田です。


今日は潰瘍性大腸炎という病気を一緒に学んでいきたいと思います。

患者さんの中には、この病気に対する理解が不十分なために過度に不安感を抱いてしまったり、効果のある治療法を中断してしまう方がいらっしゃいます。

潰瘍性大腸炎の病状が安定した期間を長く保つために、この病気を正しく理解しましょう。



1. 潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis(UC))とは?

未だ原因が不明で、長期間に渡り慢性的に大腸に炎症を起こす病気です。炎症とは大腸の粘膜に白血球やリンパ球といった血液の細胞が集まり、粘膜が負担を受けてただれて出血などを生じる状態です。


残念ながら未だ完治することが難しい病気で日本では難病認定をされています。

潰瘍性大腸炎はアメリカやヨーロッパで患者数が多い病気ですが、近年では日本を含むアジア地域で患者数が毎年増え続けています。現在日本では約17万人の患者さんがいらっしゃいます。

厚生労働省:衛生行政報告書例の概況(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/36-19a.html)



2. 原因は?

はっきりとした原因はわかっていませんが、現在以下の原因が疑われています。


(1)遺伝子

IBDは同じ家族の中に複数の患者さんがいらっしゃることなどからも、遺伝子が原因の1つとなっている可能性が指摘されています。


これまで活発に研究が行われ、原因遺伝子(疾患感受性遺伝子(しっかんかんじゅせいいでんし)と言います)の候補として100個以上指摘1されており現在も研究が進められています。


また興味深い点は、欧米の患者さんの原因遺伝子の1つがアジア人には当てはまらないといった人種差の報告があることです。

 

(2)腸内細菌の異常

IBD患者さんの腸内細菌は、一般の方と比べて種類や数の割合などが変化していることが指摘されており、これまでの動物実験の結果などから腸内細菌が原因となっている可能性が指摘されています。

 

(3)食事

IBDは欧米で患者さんの数が多い病気でしたが、近年はアジア地域でも患者さんの数が増え続けている病気です。その原因の1つとして「食生活の欧米化」の可能性が指摘されています。

しかし現在のところIBD発症の原因となっている食物などはわかっていません。

 

(4)腸の免疫システムの異常

潰瘍性大腸炎、クローン病の患者さんに共通した点として、「腸に炎症が起きている」という点が挙げられます。


この炎症の基になるのは、白血球(はっけっきゅう)、リンパ球、マクロファージ等の血液中に存在する免疫を担当する細胞です。

そしてサイトカインと呼ばれる物質が関与することでこの炎症が生じたり、悪化したりしています。


これらの免疫システムの異常がIBDの原因となる可能性が指摘されています。実際にインフリキシマブ(レミケードR など)という薬はこのサイトカインの1つであるTNFαを抑える薬であり、IBDに対して非常に高い効果を示す薬の1つです。


3. 症状は?

下痢、血便(便に血液が混じる)、腹痛などです。時に皮膚の症状、関節炎、胆管炎などを起こすことがあります。


4. 検査について

血液検査で炎症の程度を調べたり、内視鏡検査で実際に腸の粘膜を採取すること(生検(せいけん)といいます)でその腸の組織を病理検査という顕微鏡で調べる特殊な検査に提出して、最終的に確定した診断が可能となります。


5. 治療法

主に飲み薬や座薬、注腸、点滴などで治療をします。また悪化して重症化した場合には手術により腸の一部を切除したり、場合によっては全ての大腸の摘出が必要になることもあります。


6. 予後について

一般的に潰瘍性大腸炎と診断されて数年が経過すると、大腸に癌が発生することがあります。


特に発症から長い時間が経つほど危険性が上がることが知られており、大腸癌ができる患者さんの割合は発症後10年間で2%、発症後20年間で8%、発症後30年間で18%と言われています2。


その大腸の癌は長い間の大腸の炎症が原因です。しかもこの場合の大腸癌は潰瘍性大腸炎以外の患者さんに生じる一般的な大腸癌とは異なる性質を持っており、「発見されにくく、進行しやすい」という特徴を持っています。


そのためこのような大腸癌が発見された場合には、既に大腸の他の部位にも癌が生じてしまっている可能性が高いため、発見された癌の部位だけでなく、全ての大腸を手術で切除する必要があります。


7. まとめ

以上がこの潰瘍性大腸炎の解説になります。皆さんよく理解できましたでしょうか?

実際には潰瘍性大腸炎は大腸の炎症の部位から3つに分類され、それぞれに対する治療法はいくつか種類があります。


しかしどんな治療法においても最も大切なことは、長期間に渡り、適切な治療を、中断なく続けていくことで「炎症を抑え続けていくこと」です。

そうすることで大腸の炎症がしっかりと抑えられ、日々の辛い症状である腹痛、下痢、血便などが少ない生活を送ることができます。さらには炎症が原因となる癌の予防にも繋がります。


私たちジーケアは、潰瘍性大腸炎と診断された患者さんやご家族などの方々が主治医の先生と良好な関係を築き、適切な治療を継続して頂けるようにサポートをしていきたいと考えています。


ぜひコミュニティを活用して日常生活や食事、治療法などに関する疑問を解消していきましょう。



参考文献

  1. Jostins L, et al. Nature 491: 119-124, 2012
  2. Eaden JA, et al. GutApr; 48(4):526-35. 2001



執筆者:堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)