専門家の記事

こんにちは。ジーケアの堀田です。


今回は潰瘍性大腸炎、クローン病のIBDの患者さんで大切な情報である、妊娠・出産に関する情報を3つのポイントに絞ってお伝えしたいと思います。

 


1. IBD患者さんが妊娠を希望される場合に最も大切なことは?

 

とにかく私たち医師が強調して患者さんにお伝えしていることは、「妊娠から出産まで無事に終えるためには、患者さん自身のIBDの病気の状態が落ち着いている事が大切」ということです。

 

いわゆる安定した時期(寛解期)に妊娠をされた患者さんにおいては、その寛解期を維持できた方は妊娠・出産の経過が問題ない事が多いです。

 

一方で、病状が悪化している(非寛解期)状態で妊娠された患者さんは、場合によっては妊娠・出産の経過が悪くなる可能性があります。例えば予定より早めに産まれてしまう早産や、産まれてくる赤ちゃんが十分に発育できていない低体重、また時には赤ちゃんが亡くなってしまうこともあります。

 

つまり赤ちゃんが無事に産まれてくるためには、お母さんの病状をしっかりと落ち着かせる事が大切なのです。

 

時に妊娠がわかると使用中の薬剤を全て自己判断で中止にしてしまうIBDを患っているお母さんがいらっしゃる事があります。赤ちゃんへの影響を心配されての行動なのですが、逆にそのことによりお母さんの病状が悪化してしまい、最終的に赤ちゃんへの悪影響に繋がってしまいます。

 


2. IBDの病気が妊娠に及ぼす影響は?


よく誤解されやすいことですが、基本的にこれまでの研究結果で示されていることとして、潰瘍性大腸炎、クローン病の両方の患者さんにおいて妊娠のしやすさ、しにくさは一般の方と変わりません。

 

つまり、IBDの病気を持っていることそのものは特に影響がないということです。

 

しかし何らかの腹部の手術を経験されている患者さんは、手術の影響により炎症や癒着(ゆちゃく)という反応が起きますので、妊娠の確率が低下する可能性があります。

 

 

3. 妊娠中にはどの薬剤を使用すればいいの?

 

皆さんは妊娠・出産と薬の情報はどこで入手していますでしょうか?今回ぜひおすすめしたいものとして、「国立生育医療センター」という病院のホームページ内に「妊娠と薬情報センター」という欄があり、妊娠・授乳と薬に関して多くの情報が掲載されていますのでぜひご覧いただけたらと思います。


URL; https://www.ncchd.go.jp/kusuri

 

これは国の厚生労働省の事業で情報が管理されているもので、患者さんご自身もインターネットで確認できる状態になっています。

 

それではIBD患者さんの薬に限って簡単にご紹介していきますね。

 

まず先日Zoom交流会でもご紹介させて頂いた5-ASA製剤のうちペンタサR、アサコールR、リアルダRはしっかりと継続していく事ができます。一方でサラゾピリンRにはお母さんにとって大切な葉酸の吸収を阻害する可能性が指摘されていますので、可能な場合には他の5-ASA製剤への変更が望ましいです。

 

チオプリン製剤に関しては、現在では基本的には危険性は低いとされており、お母さんの病状によっては使用を継続する事ができます。しかし一方で、非臨床試験の結果ですが、催奇形性、遺伝毒性が認められていますのでその可能性は完全にはゼロとは言えませんので、それらを考慮した上での選択となります。

 

ステロイドは基本的には注意して使用を継続する事ができます。

 

バイオ製剤に関しては、特にステラーラR、エンタイビオRなどの新薬に関してはまだデータが少なく判断が難しいですが、例えばレミケードRやヒュミラRでは使用を継続する事ができますが、妊娠の後半になった段階で一時的に中止する事が必要になります。

 

実際の個別の患者さんにおいては、妊娠の際の病状や使用中の薬剤、またその薬剤同士の組み合わせなど、私たち医師は様々なことを考慮してIBDを患うお母さん方の治療計画を立てています。


このようにして妊娠がわかった最初の段階から、産婦人科の医師と共同で安心して妊娠・出産できるように日々取り組んでいます。

 

本日の投稿内容が少しでもこれから妊娠・出産を迎える、また現在妊娠中の患者さん方のお役に立てたら幸いです。