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生物学的製剤の使用に抵抗があるときの考え方
みなさんこんにちは。Gコミュニティの堀田です。
先日Gコミュニティでレミケードに関するご質問があり、その回答へのコメントという形でGYUCEさんからご質問をいただきました。おそらく多くの患者さんも同じような疑問を持たれていると思いますので、全体への投稿という形でお答えしたいと思います。
1. 質問の内容
「生物学的製剤の使用に抵抗がある」という点で、私も同じように迷っていますので、この記事に乗っかる形になりますが、質問させてください。
私は20代男性でクローン病を患っています。クローン病は4年前に診断され、現在4回目の再燃中です。これまで3回の再燃は、2~3か月程で治まりました。使用した薬はゼンタコート、ペンタサ、漢方です。現在4回目の再燃ということもあり、主治医からは生物学的製剤の使用をすすめられています。
今回も再燃してから一か月間ゼンタコート、漢方を服用して、だいぶ落ち着いてきており、治まりそうです。しかし、次は絶対に再燃させないという自信がありません。(おそらく、また1年以内に再燃しそうです)治まりつつあるものの、生物学的製剤を使用して、長期寛解の時間を維持した方がよいのか迷っています。
生物学的製剤を使うことに対する不安は、
①二次無効、効果が得られなくなってしまったときにどうするか。最終手段として取っておきたい気持ちがあります。
②生物学的製剤というものを体に入れること自体に抵抗がある。
③もし子供を作るとしたら、子供に影響がでないか(精子への影響等)
④長期間接種し続けないといけない。
ただ優先的に考えているのは、「狭窄等の合併症を作りたくない」ということです。何度も再燃を繰り返すと狭窄のリスクは高くなると思います。合併症のリスクを考えると早めに使用した方が良いのかと思います。
また、追加の質問になりますが、「クローン病で狭窄等の合併症が起こりやすい人の特徴・傾向はあるのでしょうか」また、「生物学的製剤では合併症のリスクを減らすことができるのでしょうか。」非常に長々と申し訳ありませんが、堀田先生の見解をお聞かせ頂ければと思います。
2. 質問への回答
今回のご質問への回答でまず始めにお伝えしたいことは、以前にも紹介させていただいた「銀行の貯金残高」の例えの内容です。
これは潰瘍性大腸炎、クローン病両方の方に共通する内容です。まずそれぞれの病気の診断を受けると「ある一定の金額が自分の貯金残高」として登録されるという例えです。そしてその金額は「炎症を起こして、再燃をする度に少しずつ減っていく」という仕組みです。
つまり「頻回に再燃を起こして、炎症が起きている期間が長い方ほど貯金残高が減ってしまう」というものです。それでは、この貯金残高が全てなくなってしまうとどうなるのでしょうか?
潰瘍性大腸炎の方であれば、「現在の全ての治療方法で効果がなくなり、大腸を全て手術で摘出するしか選択肢がない時」であったり、または「潰瘍性大腸炎に関連する大腸癌が発生してしまい、大腸全摘が必要になる時」です。
またクローン病の方であれば、「小腸や大腸に狭窄や、瘻孔(ろうこう)、膿瘍(のうよう)などが複数でき、生物学的製剤などの薬では対応できず、手術をするしかない状況」であったり、「手術が避けられない状況で、かつ、小腸の大部分を手術で切除する必要があり、その後は口から食事を摂ることが難しくなる」等の時です。
そのため「治療をしっかりと続けて、安定した時期(寛解)を長く保つこと」が非常に重要なのです。
もちろんご存知のように現在では「完治ができない難病」であるため、生物学的製剤を使用し続ける必要があります。しかしそのおかげで、数十年前よりも多くの患者さんが、病状が安定し、落ち着いた毎日の生活を送ることが可能になっています。
そしてIBDの領域では、現在も日々世界中で研究が進められており多くの新薬が開発され続けています。そのため将来はいわゆる「完治のできない難病」ではなくなる可能性もあるのです。その時が来るまでは、基本的にしっかりと「適切な治療を継続し、安定した時期(寛解)を長く保つこと」が大切です。
各種の生物学的製剤に関しては、現在では二次無効という、効果が落ちてきたときには投与量や期間を修正して対応し、時には他の薬へ変更する必要があります。また一般的には妊娠に関する男性への影響が大きく問題になっていることはありませんので、比較的安心して使用することができます。
また一般的にはクローン病の狭窄、瘻孔などが起こりやすい個人の特徴はそれほどなく、再燃を繰り返すことそのものがそのような合併症を起こしやすくなります。そのために「必要な、適切な治療を継続する」ことが大切なのです。
3.最後に
長くなってしまいましたが、ぜひ「銀行の貯金残高」の例えを改めて意識していただければと思います。そして今回の内容が「適切な治療を継続し、出来るだけ再燃を起こさずに、安定した時期(寛解)を長く保つ」お役に立てれば嬉しいです。