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クローン病における地中海食とSCDの効果
こんにちは、ジーケアの杉原です。
今回はクローン病患者さんを対象に行われた地中海食とSpecific Carbohydrate diet (SCD)の効果を検証したDINE-CD(The Diet to INducE Remission in Crohn’s Disease)という研究をご紹介します。
個人的な感想を含めていたら文章が長くなってしまいましたので、結果だけを知りたい方は一番下の結論をご覧ください。
このDINE-CDという研究は、Crohn’s and Colitis Foundationが行なっている研究者と患者さんのオンラインコミュニティ「IBD Partners」から発案されたものになります。
どの食事が一番いいのかというのは海外のIBD患者さんも興味がある分野で、それらの声をもとに今回の研究が実施されています。
この研究では、軽度のクローン病患者さんを対象に「地中海食」と「Specific Carbohydrate diet (SCD)」を摂取してもらい、その効果を比較しています。
地中海食は、地中海にある国の伝統的な食事様式になります。
主に野菜や果物、豆類、種実類、魚介類、オリーブオイルが豊富で、反対に肉類(特に牛肉や豚肉などの赤身肉)少ない食事になります。
Specific Carbohydrate diet (SCD)は「特定の炭水化物を制限する食事」になります。
その名前の通り、二糖類や多糖類などの複合炭水化物を制限する食事療法で、元々は1920年頃にセリアック病の治療のために考案されました。
ほとんどの穀物は複合炭水化物が含まれるため、SCDではご飯やパンなど主食をほとんど制限する必要があります。また、二糖類(砂糖やラクトースなど)も制限する必要があるため、乳製品や菓子類なども制限します。
SCDでは、それ以外には特に制限がないので、肉類、魚介類、野菜類、果物類などはほとんど摂取することが可能です。
小規模な研究ではありますが、SCDがIBDに有効であることが報告されており、欧米のIBD患者さんでもSCDを行なっている人は多くいます。
この研究では、最終的に99名のクローン病患者さんがSCDを実施、92名の患者さんが地中海食を実施し、12週間後にその効果を評価しています。
最初の6週間は栄養士が考案したレシピをもとに毎食分食事を配達して患者さんに摂取してもらっています。また、後半の6週間はそれぞれの食事を栄養士が指導して、患者さん自身で料理を作ってもらっています。
この研究の主な結果は以下の通りになります。
・臨床的な寛解率は以下の通りで、2群間に差はなかった
SCD群:46.5%、地中海食群:43.5%(6週後)
SCD群:42.4%、地中海食群:40.2%(12週後)
・CRPの低下が見られた患者さんは両群に差はなく3-10%程度の患者さんで改善が見られた。
・アドヒアランス(きちんと食事療法を実施できているか)は以下の通りで、2群間に差はなかった。
SCD群:68%、地中海食群:64%(6週後)
SCD群:40%、地中海食群:42%(12週後)
結論的に言えば、ふたつの食事療法に大きな差はなく、臨床的な症状の改善には有効だけど、CRPなどの生化学検査では改善があまり見られなかったという結果です。
この研究はIBDにおける食事療法の科学的エビデンスが少ない中、今後のIBDの食事療法を考える上で大切な研究になると思います。
ただ、専門家でもこの結果の解釈は分かれんじゃないかなというのが正直なところです。
まず、地中海食とSCDというふたつの食事療法で効果に差が見られなかったので、結局どちらがいいのかという疑問があがります。
この点に関して筆者らは、SCDは制限が多いので、より健康的な地中海食が良いだろうと述べています。
良い食事を比べてもあまり差は出ないことは予想できたのに、なぜこの二つを比較したのだろうというのが個人的な疑問です。
また、この研究の一番の問題点はアドヒアランスの低さになると思います。
上記に示した通り、アドヒアランスは6週では64-68%、12週では40-42%で1/3以上の人が食事療法を正しく実践できていないと考えられます。
この研究、最初の6週間は全ての食事を提供しており、全員同じ食事を摂取しているため食事の効果をはっきりと評価することが可能です。
それにも関わらず1/3の患者さんで食事療法が実施できていないのは、ちょっと残念な結果かなと思います。
ただ、それだけ食事療法の研究が難しいということですね。
食事は普段の生活の一部であるため、それを変えることは非常に難しいです。特に欧米ではこういった食事の研究は難しそうだなと感じました。
その点で言えば、日本人はきちんと食事管理できる人が多いので、食事の研究には適しているかもしれませんね。
皆さんはどんな食事療法に興味があるでしょうか?今後、日本でも今回紹介したような食事の研究が進むといいですね。
また何かご質問があればお気軽にコメントしてください。
<結論>
・地中海食とSCDは軽度のクローン病の臨床的な症状の改善には効果があるが、CRPなどの炎症パラメーターの変化はあまりなかった。
・地中海食とSCDでは臨床効果に差は見られなかった。
・SCDでは制限が多いため、より健康的な地中海食がクローン病の食事療法として適している可能性が考えられた。
参考URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34052278/