専門家の記事

IBDの治療の目標:症状、血液検査、便検査、内視鏡検査の位置付け
こんにちは、クローン病看護師くにです。
これからGコミュニティでIBDの医療情報の発信を担当することになりました。
改めてみなさんと一緒に学んで行こうと思います。どうぞよろしくお願いします!
第一回目は「IBDの治療目標」について解説していきたいと思います。
IBD患者さんは血液検査、内視鏡検査などさまざまな検査を受け、日頃の診察でも症状についていろいろと問診があると思いますが、それぞれの目標値や、何がどれだけ重要なのかという点がわかりにくいのではないかと思います。
そこで今回は、IBDの治療目標が非常にわかりやすく整理されていて、なおかつ日本でも多くの先生が参考にされている『STRIDEⅡ』をベースに、IBDの治療目標についてお伝えいたします。
※STRIDEⅡはIBDの治療目標の確認のために用いられる指標で、
IOIBD(International Organization for the study of Inflammatory Bowel Disease:炎症性腸疾患の研究のための国際組織)により提唱されています。
IBDの治療目標
(この図は英語を簡単な日本語に直したものです)
この図ではIBDにおける目標達成に向けた治療の流れを表しています。
全体の流れとしては、活動期のIBDへの治療を行い、短期目標として「症状の改善」「症状なし(臨床的寛解)、CRPの正常化」を目指し、次に中期目標として「カルプロテクチンの減少(粘膜の炎症の改善)」、長期的な目標として「内視鏡的寛解」を目指す流れになっています。
図の右側にはより高い目標として、クローン病の「腸管壁全層の治癒」、潰瘍性大腸炎の「組織学的寛解」も掲げられています。
また、治療の結果それぞれの目標が達成できなかった場合、治療内容を見直し、改めて目標達成を目指していきます。
それでは、それぞれの目標について少し詳しく見ていきましょう。
「症状の改善」
目標値
・CD:腹痛及び便回数の50%以上の減少
・UC:直腸出血及び便回数の50%以上の減少
症状の改善という目標では、症状が半分以上減少することを目標にしています。
クローン病と潰瘍性大腸炎では判断ポイントの症状も異なっていることがわかります。
治療によって症状が減少すると「効果があった!」という実感も持ちやすいですよね。
「症状なし(臨床的寛解)、CRPの正常化」
目標値
・CRPの正常化
・CD:腹痛がないか軽度で1日の下痢回数が3回以下
・UC:直腸出血と下痢がない状態
CRPは多くの患者さんでモニタリングされているのではないでしょうか。
CRPが正常化すると嬉しいものがありますね。
採血での炎症反応の測定にはCRPの他に、赤沈や、最近ではLRGを使っている方もいるかと思います。
クローン病では腹痛や下痢が少しある状態、潰瘍性大腸炎では腹痛がある状態でも「寛解」となります。
「カルプロテクチンの減少(粘膜の炎症の改善)」
目標値
・便中カルプロテクチンの減少
便中カルプロテクチンは日本では近年になってから保険適応になった便の検査です。
これによって腸管粘膜の炎症の程度がわかります。
すでに定期的に検査されている患者さんもいるでしょうか。
「内視鏡的寛解」
目標値
・CD:内視鏡で潰瘍がない、もしくは狭窄が1か所以下で軽度の状態
・UC:内視鏡で正常または非活動所見
内視鏡検査は下剤の内服や検査時の痛み、恥ずかしさなど、苦痛も大きい検査ですが、直接腸管の状態を確認できるためIBDでは重要な検査になります。
内視鏡で確認した上で「寛解です」と伝えられると、治療の効果をより感じられますね。
以上、IBDの治療における目標について解説してみました。
診察の際にはなかなか治療の目標設定について共有することは少ないかと思います。ご自身の今の目標はなんとなく把握できたでしょうか。
具体的な治療の目標がわかると日々の治療に対して少し前向きな気持ちが持てるかもしれません。
また身体状況の目標以外にも、ご自身のライフイベント(進学・就職・結婚・妊娠など)や生活の目標についても主治医の先生と共有することで、より自分に合った治療が選択できるかと思います。
短い診療時間では勇気が必要かもしれませんが、ぜひお話してみてくださいね。
これからもGコミュニティ内で治療や検査に関する情報をわかりやすくお届けしたいと思います!
どうぞよろしくお願いします。
参考文献:
1.Dan Turner et al., STRIDE-II: An Update on the Selecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease (STRIDE) Initiative of the International Organization for the Study of IBD (IOIBD): Determining Therapeutic Goals for Treat-to-Target strategies in IBD, Gastroenterology. Apr;160(5), p.1570-1583, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33359090/(2022-3-5)