こんにちは。消化器専門医の今井です。IBD領域の新薬を紹介していきます。前回はフィルゴチニブ(ジセレカ錠)について紹介させていただきました。
今回は2021年11月に発売開始となったアロフィセル(一般名:ダルバドストロセル)についてです。
ダルバドストロセルはヒト(同種)脂肪組織由来幹細胞を構成細胞とする再生医療等製品です。もともと幹細胞は骨髄由来のものを中心に研究されてきましたが、2000年代になり、脂肪組織にも幹細胞が存在することが発見されてから、注目されました。(骨髄よりも採取しやすいからです)
幹細胞は、免疫調整を行ったり、組織修復を行ったりする機能を持っているとされています。
ーー作用機序
痔瘻は、肛門内の内側から皮膚までトンネルのように瘻菅が繋がった状態のことで膿が溜まって腫れや痛みが続くことが多くあります。
この痔瘻では炎症が慢性的に続いていることが多く、炎症につながる活性化リンパ球や炎症性のサイトカインなどが放出されています。
ダルバドストロセルに含まれる幹細胞は、炎症性サイトカインの産生の抑制やなどを行い、さらに、過剰な免疫反応を抑制する制御性T細胞を誘導します。その機能により、痔瘻における局所の炎症を抑え、瘻孔周囲の組織を治癒させると考えられています。
ーーダルバドストロセルの臨床試験結果
国内において、クローン病に伴う複雑痔瘻治療の有効性が検証された試験では、非活動期、軽症のクローン病で複雑痔瘻を有する患者22名の24、52週後の有効性、156週までの安全性などが検証されました。
その試験においては、24週後の複合寛解率は59.1%、52週後の複合寛解率は68.2%でした。
なお、複合寛解とは投与したすべての二次口が軽い指押しを行っても排膿が見られず閉塞したことが確認され、瘻孔内に2cmを超える膿瘍がないことがMRI画像の中央判定で確認された場合を指します。
一方、安全性については24週間後までの重篤な副作用発現率は3例、52週後までの重篤な副作用発現率は4例でした。その他軽い副作用では、肛門周囲痛、上咽頭炎、下痢症状の悪化などでした。
ーー適応
適応は、少なくとも1つの既存治療薬(抗菌薬、免疫調節薬、生物学的製剤)による治療を行っても効果が不十分な非活動期又は軽症の活動期クローン病患者における複雑痔瘻の治療となっています。そのほか、既存の治療薬での治療の際に、ガイドライン等に従いシートン法等の適切な排膿処置が実施されていること、さらにはクローン病に伴う複雑痔瘻に関する十分な知識・経験を持つ医師よりダルバドストロセルの投与が適切と判断されたなどの条件もついています。
現在はIBDの治療に特化した一部の大学病院等でのみ使用されている状況です。
ーー投与方法について
まず、投与2-3週間前までにMRI検査等を行い、膿瘍腔の有無、原発口周辺の粘膜状態など確認し、すべての瘻孔を掻爬して抗菌薬の投与などを行います。
そして瘻孔がある場合は適切な処置を行い、シートンがある場合は抜去します。
投与は1回量120×10の6乗個(4バイアル(24mL)全量)を、最大で原発口2つまで、二次口3つまでの瘻孔に対して投与します。
なお、ダルバドストロセルは、製造後72時間以内に投与しなければならないという制限があり、薬価が高額であること(回量の4瓶1組で562万4円)から投与実績は少ないと言われています。
ーーおわりに
以上ダルバドストロセルについて紹介しました。ダルバドストロセルは発売されて間もないことに加え、さまざまな制限があることからまだ使用実績が十分ではない状況かと思います。
しかし、多くのクローン病患者さんが苦しむ複雑痔瘻への数少ない治療の選択肢でもあります。
今後どのように使用が広がるのか注目ですね。