患者体験談

クローン病を発症後、医師を志し、現在医者としてのお仕事と家庭、治療を両立されているtoroさんの体験談です。キャリア・職場の選択や病気を受容するプロセスなど大変参考になり勇気づけられる情報満載です。ぜひご一読ください。  Gコミュニティスタッフ

 


ーークローン病の発症はいつ頃ですか?また、発症時の症状や状況を教えてください。

 

発症は2003年3月頃、高校1年生の終わりでした。


記憶にある当初の症状は、みぞおちの鈍い痛み。便秘気味で便は固く、痔になってしまい、肛門科で診てもらったところ大きな病院への受診を勧められました。


そして総合病院を受診し、血液検査、CT検査、大腸内視鏡検査を受けてクローン病の診断となりました。総合病院の総合診療科にかかって数回の通院、1ヶ月程で診断がつきました。


確か初診の時点で「クローン病かな、最近若い人に増えていて」、みたいなことは言われたように思います。

 

ーー医師を目指そうと決めたのはいつ頃でしたか?

 

高校3年生の夏でした。


進学校で、高校1年生の私は電子関係が好きで、最初は工学部を志望していました。高校1年生の3月に総合病院を受診し、その1ヶ月間は休学。高校2年生4月には診断がついていて、以後、自暴自棄に荒れて。


自分の病気への反抗で、病気を治す薬を作ると決め、高校2年生のいつからかは薬学部志望に。

 

高校3年生の夏に、通っていた鍼灸の先生にお話ししたら、「薬学部で自由な研究はできないよ、本当に薬を研究するなら医学部だね」と言われ、高校3年生の夏に医学部を受験することに決めました。


ーーツイッターを見ていると、エレンタールの工夫をいろいろ実践されていますね!困っている方に向けて、アドバイスをお願いできますか?


私がまともに飲み続けられるようになったのは、発症から16年が経ってからでした。


ですからあまり大きなことは言えませんが、「エレンタールを飲むことのメリット」が意識できれば続けられるようになるかなと思います。

 

エレンタールを初めて飲んだのがいつだったか記憶にないのですが、研修医の頃には断続的に飲んでいたと思います。


研修医の頃からなので、発症から8年程は飲んでいなかったと思います。始めた頃の印象は、「美味しくない」でした。あとは早く飲むと下痢になりやすいという点が面倒で。


始めた工夫はゼリーにして食べること。これが意外と食べやすくて、研修医時代はゼリーにして食べていました。


でも、医師3年目から忙しくなったのもあり、また飲まなくなったと記憶しています。この頃は症状があまりでていなかったので、飲まなきゃという意識が低かったのだと思います。


次に飲み始めたのが2019年3月(発症から16年経過)に入院してからでした。手術かも?という危ういところまでいったので、さすがにヤバイと思い。そこからは炎症を悪化させないように、オレンジフレーバーのエレンタールを意識して飲むようになりました。


2021年には、持ち歩けて昼食に手軽に摂れたら良いなと思い、エレンタールクッキーを自作しました。形になりそれなりに美味しかったのですが、毎日作る余裕があるかというと難しく。この試みは結局、続けられなかったです。


2022年に筋トレを始め、オレンジフレーバーのエレンタールの中に、ミックス味のプロテインを混ぜ始めました。


これは予想外に味が良く、以降、美味しいミックスジュースとして欠かさず飲んでいます。今ではエレンタールは筋トレのお供ともなり、クローン病の寛解維持と併せて一石二鳥というわけです。


ーー仕事と治療の両立について

 

仕事を始めて11年、クローン病発症から19年が経った「いま」だから、普段から無理のない仕事量に調整しています。


最近あったエピソードを1つお話ししたいと思います。昨年、たまたま職場に同じ病気の研修医の先生がいたのです。私にとって、医師でクローン病の人に会うのは初めてでした。


彼から相談を受けました。彼は「かねてからやりたいと思っている外科に進むか、将来を考えて体力的にキツくない科に進むか、どちらにするか迷っている」と言いました。


私は自分の経験を踏まえて、「若いときはやりたいことを優先すればいい。私のようにクローン病歴が長くなると、体調の悪化からやりたいことができなくなる。そんな時がいずれ来る。


その時にあらためて進路変更を考えればいい」とアドバイスしました。おそらく彼は、本当にやりたい外科に進んだのでは、と思っています。


私は、2019年3月に再燃し入院してから、がむしゃらに働くことを手放しました。それからはより長期的な視点で、「どうやったら体調が悪化しても勤務が続けられるか」を考えてきました。


再燃以降に2度転職しています。その際にあらためて「自分がやりたいこと」と「医師かつクローン病患者として働きやすい勤務形態や環境」とについて熟考し、今の職場に落ち着いています。

 

2021年10月頃にも再燃を経験していますが、この際は約4ヶ月の経過で再燃前の体調に戻っていきました。普段から仕事量の調整をしていたのでなんとか乗り切れましたが、それでも日々過ごすことで一杯一杯でした。


入職の際に、公休を半日ずつ分割して取れるように交渉していたのが救いでした。それに加え、有給休暇を体調に応じて半日ずつ分散して取ることで、体調の悪い時の勤務時間を減らす工夫をしています。

 

ーー具体的に現在の職場のどのような条件・環境が決め手になったのでしょうか?

 

「やりたいことができる環境かどうか」が最優先でした。


雇用主である病院側から私の専門分野へご理解をいただき、専門外来をもてるように配慮いただけるか、が一番重要な条件でした。


なぜなら、クローン病というハンデを背負いながらも、「自分にしかできない強み」を活かすことができれば、病院という組織の中で十分にやっていけると思ったのです。まず、この最優先事項をもとに就職先をいくつか探しました。

 

この条件を満たす候補の中からどこに就職するかを選択する際に、「職場環境」を比較しました。


例えば、自分専用のデスクがあるか、しんどい時に一人になれる場所はあるか、他のスタッフとの距離感はどうか(私は離れている方が楽です)、職員専用のトイレはあるか、トイレには複数の個室があるか、有給は裁量をもって適宜取得できるか、仕事量と比較して時間にゆとりがあるか、などを検討しました。

 

ーー最後に診断されたばかりの方やそのご家族の方へメッセージをお願いできないでしょうか?

 

「障害受容のプロセス」というものがあります。これは、障害を受け入れるまでに歩む過程のことで、「ショック」→「否認」→「混乱」→「適応への努力」→「適応」と進んでいくとされます。


障害だけでなく、慢性疾患でも同様のプロセスをたどると言われています。クローン病歴19年の私ができる最大のアドバイスは、「クローン病と診断された時点から、この障害受容のプロセスが始まります」ということです。

 

私はクローン病になってから現在もなお、このプロセスを歩んでいます。実際には、綺麗にこの順に進んで無事に「適応」というわけではなく、ぐるぐる渦のようにめぐり、数々の涙を経て、徐々に「適応」へと進んでいきます。

 

クローン病になることがすでに人生の受難でありますが、クローン病であることを受け入れることこそが本当の試練だと強調したいと思います。


ただ一つの希望は「障害受容のプロセス」が示すように、どれだけ年月がかかるかは分からないけれど、必ず「適応への努力」を始める時が来るということです。それまでは、とにかくつらい経験くり返し、苦悩していくしかないように思います。

 

ここまでは「とてもつらい」ということを強調してお話ししてきましたが、少し明るいお話を。こちらはどちらかというとご家族様へのメッセージです。ちょうどこの記事を書かせていただいているとき、私の息子が生後5ヶ月になり、離乳食を始めました。


子供の成長は早く、「親が心配しても、しなくても」、自然と声を出したり、寝返りしたり、物を掴んだりできるようになります。クローン病への適応もそのようなものだと思っています。


「親が心配しても、しなくても」、本人が日常の中で数々の経験を積み、少しずつ「適応」に向けて進んでいくものと思っています。

 

ーー謝辞

 

株式会社グッテの皆様、このような貴重な機会をいただきありがとうございました。また、クローン病患者の皆様、ご家族・ご関係者の皆様、最後までお読みいただきありがとうございました。私の体験談が少しでも助けになれば幸いです。

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