患者体験談

今回はElemental_Ph.Dさんに体験談をご寄稿いただきました。薬剤師の資格を持ちながら大学教員として研究にも携わっているElemental Ph.Dさん。仕事との付き合い方の中で触れられている服用や食事、病気との向き合い方についてはなるほどと思うことばかりでした。IBDを発症後に医療従事者や研究者を目指す方は多いと思います。そのような方にもぜひ読んでいただきたい体験談です。 グッテスタッフ
ーーはじめに
皆さん、お読み頂いてありがとうございます。薬剤師のElemental_Ph.D と申します。
今回はGコミュニティさんからお声がけ頂き、私の持病である潰瘍性大腸炎(UC)に関する体験談を語らせて頂きます。
まず、UCというと国指定の難病で、罹患してしまったら人生が終わるように感じる方もいるかもしれません。しかし、私も含めて多くの医療従事者が炎症性腸疾患(IBD)と付き合いながら働いています。決して楽な道ではありませんが、少しでも皆さんにとって明るい話題提供になれば良いなと思います。
ーー病状は?
私は、現状【左側限局】の【ステロイド依存性】で【中程度症】です。しかし、一時は大腸の3/4に炎症が広がり、回盲部(小腸と盲腸のつなぎ目)にも炎症が点在していました。
皮膚合併症や膵炎なども経験し、長い時で1カ月半、短い時で3週間程度の入院も繰り返しています。
ーー回盲部周辺の炎症は重要か?
少しお話はずれますが、UCでは回盲部周辺に炎症が現れることがあります。
私もそうですが、現在までの研究で実はこの炎症が病状を悪化させているという根拠もなく、炎症の強さにかかわらず一定の割合で見つかると言われています。なので、遠いところに炎症があるからといって怖がる必要はそれほどないという事も書き留めておきたいと思います。
ーー発症~就職までのお話
IBDは若い方に発症しやすく、様々なライフイベントを邪魔する事で知られています。様々な参考書や患者向け資料がありますが、体験談は少ないですよね。私も、発症したときは体験談の少なさに結構苦労しました。
私の発症は大学院1年目の秋ごろ。1日30回以上の血便、渋り腹と冷静に見れば明らかなUCの症状です。ですが、当時の私は現実逃避して、痔と過敏性腸症候群の合併という線はないか…など考えていました。
それでも体調管理に限界が見え始め、近医を受診。その日のうちに、グリセリン浣腸というお薬を看護師さんに肛門から注入され(20代前半の男が他人に浣腸されるというのは、想像以上に精神的ダメージを受け)、内視鏡検査を受けました。
医師から「まず間違いなくUCです。生検(組織を取って顕微鏡で炎症の種類などを調べる検査)の結果を見ないと確定はできないけど、もう治療を始めましょう」と告げられ、研究室へ戻る足取りが、重いとかいうレベルではなかったことを未だに覚えています。
指導教官の助教、ラボの教授、私の3人で話し合い、まずは様子を見つつ研究を続けることになりましたが、家族への説明や病気に対する理解不足、的外れなアドバイスや健康食品の差し入れなどバタバタした毎日が1年ほど続きました。
初期治療はアサコール9錠。病状コントロールが悪く、プレドニゾロンというステロイドを1日6錠飲んで漸減したり、免疫抑制剤(アザチオプリン、メルカプトプリン)、顆粒球除去療法、抗TNF-α抗体製剤(アダリムマブ)など様々な治療を行っても寛解の維持が非常に難しい難治症例として生きてきました。
副作用で吐気が出たり、道端で嘔吐したり、排便がコントロールできず駅や車内で汚れた下着等を処理したときには人間性を否定されたような気分になりました。
私がラッキーだったのは、薬学部のラボで学生・教員共に医療の知識と倫理教育を受けていたという点です。
要は難病を理由に虐げられることもなければ、変な民間療法を勧められることもありません。そして何より、別の臨床系ラボの教授がIBDも診ている医師で、私にUCを罹患している医師を紹介してくれたり、勉強会へ連れ出したりしてくれました。
その後、指導教官が薬剤部長をしていた病院薬剤部へ就職します。結局、周囲には病気に理解のある人間しかいませんので、本当に助かりました。
ーー学業、仕事を続ける上での工夫
薬というのは、治験をするとき「ある程度決まった時間に使用する」という厳格な管理で行われます。つまり、治療薬が持つ力を最大限引き出すためには、薬を飲むタイミングをバラバラにしないことが大切だと私は考えています。
今は、リアルダを中心に副作用対策のお薬や乳酸菌製剤など4種類の内服、8週間に1回の外来治療(ベドリズマブ)を受けています。
なので、私は職場の机と自身の鞄に予備の薬を常に2日分置いてありますし、出張の際はスーツケースに日程の倍量持って出かけることで、飲み忘れを防いでいます。
そして、受診のタイミングは自宅に受診票を張り付け、カレンダーに記載し、職場のカレンダーや手帳、スマホにも記録することで受診タイミングを忘れないようにしています。
食事について良く聞かれますが、大原則は『健常者だって暴飲暴食すれば体調崩す』です。つまり、体調が少し微妙なら消化の良いものや温かいものを食べたり、ゆっくり食事をしたりします。
寛解期の食事についてですが、栄養バランスを気にはしますが適当です。寛解期と言えども体調不良の時は健常者と同程度に養生します。大切なのは、楽しんで健康な食事をすることだと私は考えています。
次に休養ですが、研究者や医療従事者はどうしても休みが取りにくいです。ですから、頼るときは他者を頼り、しっかり感謝を言葉と形と態度で示す事で、空気が悪くならないように気を付けています。
最後に精神的な部分です。この病気は、長い付き合いになります。私も発症してから今年で10年が経ちました。
病気を呪い、病気を理由に立ち止まることを私はあまりしたくありません。なぜなら、私にとってそういう心の使い方はUCを悪化させるだけだという事を自分の身体でしっかりと理解したからです。
私は学会で発表するときに、自分の腸管を見せながらIBDの話が出来ます。毎回様々な先生から「インパクトがある」「自分の腸管を見せると説得力が違う」「患者ならではの目線が良い」などなど言われます。
UCであることが幸福だと思ったことは一度もありませんが、患者である事を武器に実力以上に評価して頂いている実感はあります。
なってしまった以上、うまく付き合って生きていかざるを得ません。なら、前に進むしかないと考えています。ただし【良い加減】さも大事にしています。
ちょっとズレたり、忘れたりする程度でイライラせず、時にご褒美で好きなものを食べ、夜中まで映画を見たり、良い加減です。
ーー最後に
Gコミュニティをご覧の方には、これから医療従事者を目指す方、あるいは目指している方がいると思います。
私は薬学部の教員として、皆さんに偉そうなことを言える立場にはありません。ただ、自分自身が患者であるという事は、医療従事者として毒にも薬にもなります。『私はこうだから、きっとこうだ!』と考えてしまうのは、本当に怖いです。
私がUC患者として大丈夫だから、皆さんも大丈夫とは思いません。皆さんの苦しみは私には分からず、貴方達だけのものです。だからこそ、それを知っていれば(名医療従事者になれるかどうかは器用さとかもありますから、別として)患者さんと良い距離でお付き合いできる医療従事者になれると確信しています。
長い文章を読んでくださって本当にありがとうございます。
皆さんにとって、私の文章が少しでも役に立ったら嬉しいですし、それ以上に私の経験に興味を持ってくださったことで、私が経験した苦しみは無駄でなかったと実感できます。重ねてお礼を申し上げます。
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