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この記事では炎症性腸疾患のAdvanced Therapyと呼ばれる治療薬一覧を紹介します。

Advanced Therapyとは、「進んだ治療」や「より新しい治療法」という意味で、主に生物学的製剤(バイオ製剤)やJAK阻害剤などの分子標的薬と呼ばれる薬を指します。

従来の治療(5-ASA、ステロイド、免疫抑制剤など)で十分に効果が得られなかった患者さんに対して使われる、より専門的で効果の高い治療手段です。

作用機序ごとに大きく以下に分られます。

* 下線を引いた薬剤は潰瘍性大腸炎、クローン病ともに処方可。それ以外は潰瘍性大腸のみに処方可。

生物学的製剤

  • TNF-α抗体:レミケード®ヒュミラ®、シンポニー®
  • 抗α4β7抗体:エンタイビオ®
  • IL-12/23p40)抗体:ステラーラ®
  • IL-23p19)抗体:オンボー®スキリージ®トレムフィア®

JAK阻害剤

  • ゼルヤンツ®、リンヴォック®、ジセレカ® 

  S1P受容体調節薬

  • ゼポジア®、ベルスピティ®

α4インテグリン阻害剤

  • カログラ®

各薬剤は作用機序に加え、剤型、用法・容量が異なり、さらに特徴も異なります。

以下の表を主治医の先生との治療選択の相談の一助にしていただければ幸いです。

 

生物学的製剤(TNF-α抗体)

レミケード®(インフリキシマブ)

点滴静注

最初のバイオ製剤。投与は医療機関のみ。速効性・エビデンス豊富。抗体産生による効果減弱に注意。腸管外合併症に有効とされている。

ヒュミラ®(アダリムマブ)

皮下注(ペン/シリンジ)

自己注射可。2週ごとの注射が必要。皮下注製剤として実績が長い。抗体産生による効果減弱はレミケードよりも起きにくい。

シンポニー®(ゴリムマブ)

皮下注

完全ヒト型で抗体産生リスクが最も低い(二次無効になりにくい)。月1回投与で利便性が高い。UCにのみ使用可能で、寛解維持のデータは実績がある。

生物学的製剤(抗α4β7抗体)

エンタイビオ®(ベドリズマブ)

点滴静注 / 皮下注

腸管に選択的に効果を示すため、全身の免疫を抑えない。そのため、感染リスクが低い。ただし効果発現は抗TNFより遅い。安全性を最優先する場合に適している。

生物学的製剤(抗IL-12/23p40)抗体)

ステラーラ®(ウステキヌマブ)

点滴静注→皮下注

TNFαではなく、Th1/Th17という炎症性サイトカインを抑制する。投与間隔が8週間と長く利便性高い。感染症リスクはあるが、TNF抗体よりやや低いとされる報告もある。また結核の再活性化リスクもTNF抗体に比べて少ないと考えられている。

生物学的製剤(抗IL-23p19)抗体)

オンボー®(ミリキズマブ)

点滴静注→皮下注

IL-23選択的に働くため、ステラーラよりも感染症リスクは低いと考えられている。オンボーは特にUCに対して高い臨床寛解率と症状改善が比較的速やかだと言われている。維持は4週ごとで利便性がやや劣る。

スキリージ®(リサンキズマブ)

点滴常注→皮下注

UC, CD両方に使える製剤として他の2剤に先立って承認された。臨床試験で高い寛解率、特に内視鏡的寛解率が優れていると報告されている。さらに比較的早い効果発現が期待される。

トレムフィア®(グセルクマブ)

点滴静注→皮下注

IL-23の中では投与間隔を選択可能。dual-acting(二重作用)と呼ばれる特殊な作用機序を持っており、IL-23を中和する以外にも、IL-23を産生する細胞にも直接働くことができ、他の治療で効果ない症例でも有効性がある可能性が最近学会で報告されている。

JAK阻害剤

ゼルヤンツ®(トファシチニブ)

JAK阻害剤の先駆けで速効性高いこと、さらに長期の成績がよいことが知られている。ただしJAK阻害剤特有の安全性(感染・血栓)に注意が必要とされている。

リンヴォック®(ウパダシチニブ)

徐放錠

JAK1選択性でゼルヤンツより安全性改善とされる。速効性は非常に高く、投与翌日にも症状が軽快するデータが報告されている。11回で利便性良好。UCCDで効果が認められている。

ジセレカ®(フィルゴチニブ)

JAK1選択性で比較的安全性が良い。ただし有効性はリンヴォックより控えめとされているため、より軽症寄りの症例で使用されることが多い。

S1P受容体調節薬

ゼポジア®(オザニモド)

カプセル

S1Pの先行薬。リンパ球の遊走が持続的に抑制され、血中のリンパ球数が低下し、炎症部位に集まるリンパ球数が抑制されると考えられている。安全性は高い。漸増が必要。心拍数低下や眼科合併症に注意。発現は中等度。

ベルスピティ®(エトラシモド)

S1Pの改良型。漸増不要で利便性高い。心血管リスクは少なめ。オザニモドより実用性が高い可能性が指摘さている。

α4インテグリン阻害剤

カログラ®(カロテグラストメチル)

エンタイビオに似た作用機序の内服薬である。最大6か月の投与のみとなっているため寛解維持治療には使用できない。また124錠の内服が必要になる。