専門家の記事
消化器専門医の今井です。今回は、潰瘍性大腸炎(UC)の新しい治療目標について、最近発表された研究を紹介したいと思います。
UCの治療では、血便や下痢などの症状がなくなることが大切です。ただし、症状が落ち着いていても、腸の中には炎症が残っている場合があります。
最近では、症状を改善するだけでなく、腸の炎症もしっかり抑えることが、その後の再燃や入院などを防ぐために重要と考えられています。
2026年10月に発表された「VERDICT試験」では、このような治療目標の違いによって、その後の経過にどのような差が出るのかが調べられました(1)。
「疾患クリアランス」とは?
UCの治療では、症状や炎症が落ち着いている状態を寛解と呼びます。ただし、寛解にはいくつかの種類があります。
・血便や下痢などの症状が落ち着いている「症候的寛解」
・大腸内視鏡検査で腸の炎症が十分に改善している「内視鏡的寛解」
・内視鏡検査で採取した腸の組織を顕微鏡で調べても、炎症が十分に治まっている状態を「組織学的寛解」
この3つをすべて達成した状態が「疾患クリアランス(Disease Clearance)」です。今回の研究では、さらにステロイドを使用していないことも条件になっています(2)。つまり、症状がないだけでなく、腸の中の炎症までしっかり治まっている状態を目指そうという考え方です。
研究ではどのようなことがわかった?
今回のVERDICT試験では、中等症から重症のUC患者さん672人を対象に、3つの異なる治療目標を比較しました。
1つ目は症状の改善、2つ目は症状の改善に加えて内視鏡的寛解、3つ目はさらに組織学的寛解まで目指すグループです。
いずれもベドリズマブ(エンタイビオ)を中心に治療が行われ、目標に達していない場合には治療を調整しました。
その結果、疾患クリアランスを目指して達成したグループでは、症状の改善のみを目標として達成したグループに比べて、UCに関連する合併症が起こるリスクが約67%低いという結果が得られました(1)。
ここでいう合併症には、病状が悪化して追加の治療が必要になることや、入院、手術などが含まれています。実際には、病状悪化による追加治療が最も多くみられました。
ただし、今回の約67%という数字は、研究に参加した患者さん全員ではなく、それぞれの治療目標を達成した400人を比較した結果です。すべてのUC患者さんで同じようにリスクが下がるという意味ではありません。また、症状と内視鏡的寛解を目指したグループでも、合併症のリスクは同じように低くなっていました。
この結果から、症状の改善だけでなく、内視鏡で確認できる炎症までしっかり抑えることが大切なのではないかと考えられます。一方で、顕微鏡レベルの炎症まで完全に抑えることを目標にすることで、さらにメリットがあるのかについては、今回の研究では明確な差が認められませんでした。
すべての患者さんが疾患クリアランスを目指すべき?
今回の結果を聞くと、「自分も疾患クリアランスを目指したほうがいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
ただし、必ずしもすべての患者さんが同じ治療目標を目指す必要はありません。
今回の研究は、主に生物学的製剤を使ったことがない中等症から重症の患者さんを対象としており、ほかの薬剤を使用している患者さんなどにも同じ結果が当てはまるかは、まだわかっていません。
また、2026年に発表された国際的な治療目標「STRIDE-III」でも、内視鏡的寛解は重要な目標とされていますが、組織学的寛解については、治療を考える際の補助的な目標とされています(3)。
そのため、組織検査で少し炎症が残っているからといって、必ずしも治療薬を変更する必要があるわけではありません。
実際には、これまでの治療歴や症状、検査結果などを踏まえて、一人ひとりに合った治療を主治医の先生と考えることが大切です。
おわりに
今回の研究は、UCの治療では症状を改善するだけでなく、腸の炎症もしっかり抑えることが、その後の病状悪化を防ぐために重要である可能性を示したものです。
もちろん、症状が落ち着いていることはとても良いことですので、必要以上に心配することはありません。
ただ、症状がないからといって、必ずしも腸の炎症がなくなっているとは限りません。
ご自身の治療について気になる方は、主治医の先生に聞いてみてもよいかと思います。
参考文献
(1)Jairath V, Colombel JF, D'Haens GR, et al. VERDICT: Randomized treat-to-target trial of corticosteroid-free targets with vedolizumab-based treatment algorithms in ulcerative colitis. Presented at UEG Week 2026, October 2026. Late-breaking abstract LB07.
(2)https://doi.org/10.1136/bmjgast-2023-001218
(3)https://doi.org/10.1016/S2468-1253(26)00292-X