専門家の記事

こんにちは、ジーケア の宮﨑です。

今回は、小児IBDと食事について紹介させていただきます。(小児:一般的に7歳から15歳未満)


まずはじめに小児IBDの食事を考える上でベースとなる必要なエネルギーや栄養不足がもたらす症状について紹介させていただき、その後、小児IBDの寛解導入、寛解維持に関する食事療法やその科学的な根拠について紹介させていただきます。


小児IBDと食事のポイント


・IBD活動期は、高たんぱく質食

・ビタミン・ミネラルの不足に注意

・給食や修学旅行も体調に合わせて調整



1 小児IBDにおける必要エネルギー量とたんぱく質量


1)エネルギー

必要エネルギー量については健康な子供と同程度と言われています。


この必要エネルギー量については様々な試験が行われてきましたが、結果にばらつきがあり、必ずしもエネルギー量が健康な小児と比べて上がるかはわからないと考えられています。(1)


摂取エネルギーが不足しているかの判断は、成人同様に体重を指標とするとわかりやすいかと思います。


もし体重の減少が見られる場合、身長が伸びているにも関わらず体重が増加しない時などは、担当の医師に相談しましょう。


2)たんぱく質

一方、たんぱく質の必要量については、寛解期では健康な子供と同程度と考えられていますが、活動期には健康な小児より多くのたんぱく質が必要と考えられています。


たんぱく質摂取量の増加が推奨される理由としては、①子供は成長を続けていること、②炎症によりたんぱく質が失われること、③食事の摂取が減少することがあげられます。


特に活動期で、体重の減少や成長の鈍化が見られる場合は、たんぱく質摂取量を25%増やすことが推奨されています。(1)


たんぱく質は子供の体を形作る上で、もっとも大切な栄養素の一つです。


エネルギー同様に体重を指標としつつ、長期的には身長も含めた成長をみながら、何か不安な点がある場合は、すぐに担当の医師に相談してください。


その他炭水化物や脂質の摂取については、現時点では限られた研究しか行われておらず、健康な小児と比べての必要量の増減に関しては、推奨がないのが現状かと思います。


このような中、小児IBDの食事に関しては成人と同様に、エネルギー・たんぱく質の不足に注意を払いつつ、食物繊維が豊富な野菜やフルーツ、健康的な脂質などをバランス良く摂取していくことが一般的に推奨されると思います。



2 ビタミン・ミネラル不足により引き起こされる症状


成人も含めたIBDにおいて、ビタミンとミネラルの不足に関連する代表的な疾患が、骨粗鬆症と貧血です。


1)骨粗鬆症

骨粗鬆症については、特にIBDを早期に発症した患者の骨密度の低下が懸念されており、10-40%の小児IBD患者において骨密度の低下が見られるとも言われています。(2)


主な原因としては、ステロイドの長期投与、ビタミンD不足、運動不足などが考えられています。(3)


骨粗鬆症予防において重要な役割を担うのがビタミンDとカルシウムです。


ビタミンDは、カルシウムが不足している場合、腸管からのカルシウムの吸収を高め、尿からのカルシウムの再吸収を促進することに加え、骨にカルシウムが吸着することも助けます。


このようにビタミンDは骨密度を高める上で非常に重要な働きを持っていることから、全ての小児IBD患者に対してビタミンDレベルのモニタリング、不足時のビタミンDのサプリメントが推奨されています。(1)


またカルシウムについても同様に、摂取量のモニタリング、不足時のサプリメントが推奨されています。(1)


2)貧血

小児IBD患者における貧血は非常に多く確認されています。


例えば、過去のカルテを振り返り小児IBDで貧血を伴う患者の割合を確認した研究では、約70%の小児IBD患者が診断時に貧血を有していたこと、特にクローン病でその割合が多かったが報告されています。(4)


IBDで貧血が引き起こされる要因としては、慢性的な炎症、鉄、ビタミンB12/葉酸(いずれも赤血球の生成に必要)の不足が考えられます。


特に鉄については、慢性的に血液(鉄が含まれる)が失われることに加え、腸管の炎症により、鉄分を十分に吸収できないことも影響を与えていると考えられています。(2)


このような状況を踏まえ、鉄、ビタミンB12、葉酸については、定期的なモニタリングと、不足時のサプリメント(経口剤、静注など)の投与が勧められています。(1)


その他にも様々なビタミン、ミネラルがあり、IBDの症状や炎症の部位によって、不足することがありますので、体調が優れない場合などは、担当の医師に相談してください。



3 小児IBDの活動期の食事療法


1)Exclusive Enteral Nutrition(EEN:排他的経腸栄養)

小児クローン病の寛解導入については、もっとも多くの研究が行われており、しかも医師・研究者の中で効果あるというコンセンサスが得られているのが、Exclusive Enteral Nutrition(EEN、食事をなしにして、経腸栄養剤からのみ栄養を摂取する方法)です。(5)


例えば、これまで行われた臨床試験をまとめて(統合して)解析した研究では、EENは、小児クローン病患者の寛解導入において、ステロイド投与と同程度の寛解導入効果があったことが確認され、EENによる腸管粘膜の治癒もステロイド投与と比べて優れている可能性があることも示唆されています。(6)


しかしながら、EENが、腸内細菌に影響を与えることが懸念されており、(7) 長期的な腸内細菌、IBDに対する影響の解明が待たれます。


一方潰瘍性大腸炎に対するEENは、あまり研究が行われておらず、クローン病と同様に臨床効果が見られるかはわかっていません。


2)Specific Carbohydrate Diet(SCD: 特定の炭水化物のみを摂取する食事療法)

EENの次に多くの研究が行われている食事療法が、Specific Carbohydrate Diet(SCD)です。


SCDは、もともとシリアック病(グルテンが含まれた食材を食べると、腸管のひだが萎縮し、栄養素の吸収が制限される疾患)に対して、提唱された食事療法が、IBDに適用されたものです。


食事内容は、糖鎖の短い炭水化物であるグルコース、ラクトース、ガラクトースが入った食事をメインとし、糖鎖が長くて複雑な炭水化物の摂取を避けることです。


精製等や複雑な炭水化物が、腸内細菌構成に影響を与え、炎症に繋がるのというSCDの仮説が背景にあり、全ての穀物、加工食品、乳製品、精製等が含まれる食品を取り除くというかなり制限の厳しい食事療法となっています。


SCDについては、小規模の臨床試験や過去のデータを解析した研究が行われており、SCD前後で、臨床スコアの改善や腸膜の回復が示唆されていますが、科学的根拠としては不十分と言われており(8)、今後さらなる研究が待たれます。


またここまで制限の厳しい食事を小児の患者が続けられるのか、長期的に問題がないのかについても検証が待たれます。



4 小児IBD寛解期の食事療法


1)経腸栄養、栄養剤

経腸栄養を用いた寛解維持についてはまだあまり研究が行われていません。


いくつかの小規模・エビデンスレベルの低い試験で、継続的な経腸栄養や栄養剤の使用で、寛解率が改善されたことが示唆されています(8)が、まだコンセンサスが得られていません。


2)オメガ3系多価不飽和脂肪酸

イタリアで行われた臨床試験では、プラセボ群と比べてオメガ3脂肪酸摂取群で、12ヶ月後の増悪回数が有意に低かったことが確認されています。


しかしながら現時点では、小児IBDとオメガ3系脂肪酸に関する研究が不足しており、小児IBDに対してオメガ3系脂肪酸の投与が有効かどうかの結論はまだ得られていません。



5 小児期の食生活で気をつけるべきポイント

最後に小児特有の食生活において、気をつけるべきポイントをまとめてみます。


1)おやつ

小児の患者さんでは、家の外で、おやつやスナック、ソフトドリンクなど脂質や糖分の多い食品に囲まれる機会が多いと思います。


多少そういったスナックを取っても問題はないことが多いと思いますが過度な摂取は長期的にIBDに何らかの影響を与える可能性もあります。


そこで少なくとも家の中には、おやつなどを置かないまたは目の触れるところに置かないようし、家の中でおやつを無意識に食べたり、過度に摂取することを避けるようにしましょう。


2)給食

体調によっては、給食の食事が体に合わないこともあるかと思います。


そのような場合は、担任の先生にも相談し、無理をせずに食べられないものは食べない、また場合によってはお弁当を用意するなどして、その時々の体調にあった食事を選びましょう。


3)修学旅行

修学旅行では、普段と全く違う食事に触れる機会があると思います。


おそらく2,3日食事が変わっただけで大きな影響があることはないとは思いますが、普段の食事と大きく内容が異なる場合は、少量ずつ食べるなどして、体の調子をみながら食事を進めていきましょう。


また、もともと体調が優れない場合、事前に学校や担任の先生に相談し、食べることが可能な食事を旅館に伝え、用意してもらうことも可能と思います。



以上、小児IBDと食事について紹介させていただきました。



参考文献

(1) Miele E, Shamir R, Aloi M, et al. Nutrition in Pediatric Inflammatory Bowel Disease: A Position Paper on Behalf of the Porto Inflammatory Bowel Disease Group of the European Society of Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 66(4):687-708, 2018. 

(2) Kim S, Koh H. Nutritional aspect of pediatric inflammatory bowel disease: its clinical importance. Korean J Pediatr. 58(10):363, 2015. 

(3) Schmidt S, Mellström D, Norjavaara E, Sundh V, Saalman R. Longitudinal assessment of bone mineral density in children and adolescents with inflammatory bowel disease. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 55:511-8, 2012.

(4) Aljomah G, Baker SS, Schmidt K, et al. Anemia in pediatric inflammatory bowel disease. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 67:351–355, 2018. 

(5) Ruemmele FM, Veres G, Kolho KL, et al. Consensus guidelines of ECCO/ESPGHAN on the medical management of pediatric Crohn’s disease. J Crohns Colitis. 8:1179–1207, 2014.

(6) Swaminath A, Feathers A, Ananthakrishnan AN, et al. Systematic review with meta-analysis: enteral nutrition therapy for the induction of remission in paediatric Crohn’s disease. Aliment Pharmacol Ther. 46(7):645-656, 2017.

(7) Maclellan A, Connors J, Grant S, et al. The Impact of Exclusive Enteral Nutrition (EEN) on the Gut Microbiome in Crohn’s Disease: A Review. Nutrients. 9(5):0447, 2017. 

(8) Penagini F, Dilillo D, Borsani B, et al. Nutrition in Pediatric Inflammatory Bowel Disease: From Etiology to Treatment. A Systematic Review. Nutrients. 8(6):334, 2016. 



執筆: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国管理栄養士)

監修: 杉原 康平(栄養学博士、管理栄養士)、堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)