専門家の記事

こんにちは、ジーケア の宮﨑です。

今回は、私が所属していたミシガン大学をはじめアメリカで、過敏性腸症候群(IBS)患者さんや、IBS症状を有する炎症性腸症候群(IBD)患者さんに幅広く処方されている食事療法, 低フォドマップ食の概要と低フォドマップ食とIBDの科学的なエビデンスについて紹介させていただきます。


IBDと低フォドマップ(FODMAP)食のポイント


・FODMAPを含む食事は腹痛・下痢に繋がる可能性あり

・FOMDAPに対する反応は個人差あり

・IBDに関する科学的根拠は徐々に蓄積も、未だ不明点多い



1 フォドマップ(FODMAP)とは?

フォドマップ(FODMAP) とは、以下の頭文字を組み合わせた言葉になります。


Fermentable:発酵性の

Oligosaccharides:オリゴ糖(フルクタン、ガラクトオリゴ糖) 

Disaccharides:二糖類(ラクトース)

Monosaccharides:単糖類(フルクトース) 

And

Polyols:ポリオール(ソルビトール、マンニトール、イソマルト、キシリトール、グリセロール)


多くの人はこれらのFODMAPを問題なく消化・吸収することができます。


しかし、IBS患者さんやIBD患者さんの中には、これらのFODMAPの一部を小腸で吸収することができず、そのまま小腸に残ってしまうことがあります。


この小腸内に残存したFODMAPがIBDやIBS患者さんの消化器症状に関わると考えられています。


これらのFODMAPが消化器症状を引き起こす機序として、以下の2つのことが関与すると言われています。


1)消化管内に過剰に水分を滞留させる

小腸内に残存したFODMAPが、小腸の表面から水を吸い上げて、消化管内に過剰に水分を滞留させます。消化管内に水分が溜まることによって、腹部の膨満感や腹部の痛みや、下痢などの原因になると考えられています。(1),(2)


2)腸内細菌によって発酵され、ガスを発生させる

吸収されなかったFODMAPは、大腸まで移動し、腸内細菌により発酵されます。その結果、ガスが消化管内に滞留し、腹部の膨満感や痛みにつながると考えられています。(1),(2) 




2 どれくらいのフォドマップ(FODMAP)を食べたら症状が出るの?

では実際にどの程度のFODMAPを食べたら消化器症状に繋がるのでしょうか?


これは非常に難しい問題で、患者さん一人一人で処理することのできるFODMAPの上限量が異なっています。


この上限量は、バケツに想像してもらうとわかりやすいと思います。


FODMAPが含まれる様々な食べ物を食べていると、バケツの中のFODMAPが徐々に増えていきます。


FODMAPが溜まり、バケツが溢れると(上限量を越えると)、消化器症状が現れると考えられています。


ここで理解すべきポイントは、FODMAPは累積するということです。


一つ一つのFODMAPを摂取して症状がでない場合でも、それが徐々に蓄積していくと、消化器症状が現れる可能性があります。


また累積するということは、FODMAPが含まれる食べ物の種類に加え、食べ物に含まれるFODMAPの量が重要になります。


またFODMAPによって現れる消化器症状にも個人差、食べ物による時間差があります。早い人の場合は、数10分、遅い人の場合は2-3日後に症状が出ることもあるようです。



3 低フォドマップ(FODMAP)食はIBDに有効なの?

IBD患者さんのうち約1/3の方は、寛解期で炎症が落ち着いているにもかかわらず腹痛・下痢等の消化器症状を有していると言われています。(3),(4)


以前から消化器症状と食事の関係は注目されており、グルテン除去食やラクトース除去食などの食事療法が試されてきました。


その中でも、最近特に注目されているのが低フォドマップ(FODMAP)食です。


食事からのフォドマップを制限することにより、IBDの悩みの種である消化器症状をコントロールできるという臨床結果が得られています。


イギリスで行われた臨床試験では、消化器症状が安定している寛解期IBD患者が、FODMAPが含まれる食事を試してみた結果、複数のFODMAPがIBD患者の消化器症状悪化に繋がったことが確認されました。(5)


また、寛解期IBD患者の消化器症状に対する低フォドマップ(FODMAP)食の効果を検証した複数の臨床研究結果を解析したメタアナリシスも行われており、低フォドマップ(FODMAP)食が、寛解期IBD患者の下痢、腹痛、膨満感、疲れ、吐き気などの症状を改善させることが確認されています。(6)


これらの結果から、FODMAPが寛解期IBD患者の消化器症状の原因の一つであり、FODMAPを制限することにより消化器症状が改善される可能性が示唆されました。


一方で、低フォドマップ(FODMAP)食が腸内細菌の構成に及ぼす影響が懸念されています。


例えば、IBS患者と健常人を対象として、低フォドマップ(FODMAP)食とオーストラリアの一般的な食事が腸内細菌に及ぼす影響を検証した試験では、低フォドマップ(FODMAP)食により、善玉菌のような身体に良い腸内細菌が減少することが確認されました。(7)


しかし、低フォドマップ(FODMAP)食による腸内細菌環境の変化は、低フォドマップ(FODMAP)食をやめることで元に戻ることも確認されています。(8)


今後は、IBD患者に対する低フォドマップ(FODMAP)食が、長期的に腸内細菌やIBDの病態にどのような影響を与えるのかについての研究が待たれます。



以上、低フォドマップ(FODMAP)食のコンセプトと、IBDに関するエビデンスについて紹介させていただきました。


次回の記事では、具体的に低フォドマップ(FODMAP)食をどのように実践するのかについて、詳しく説明させていただきます。



参考文献

(1) Chey WD, Eswaran S, Kurlander J. Irritable bowel syndrome: a clinical review. JAMA. 3;313(9):949-58, 2015.

(2) Staudacher HM, Whelan K. The low FODMAP diet: recent advances in understanding its mechanisms and efficacy in IBS. Gut. 66(8):1517-1527, 2017.

(3) Farrokhyar, F., Marshall, J. K., Easterbrook, B. & Irvine, E. J. Functional gastrointestinal disorders and mood disorders in patients with inactive inflammatory bowel disease: Prevalence and impact on health. Inflamm. Bowel Dis. 12, 38-46, 2006.

(4) Simrén, M. et al. Äi0Quality of life in inflammatory bowel disease in remission: the impact of IBS-like symptoms and associated psychological factors. Am J Gastroenterol. 97, 389-396, 2002.

(5) Cox SR, Prince AC, Myers CE, et al. Fermentable Carbohydrates [FODMAPs] Exacerbate Functional Gastrointestinal Symptoms in Patients With Inflammatory Bowel Disease: A Randomised, Double-blind, Placebo-controlled, Cross-over, Re-challenge Trial. J Crohns Colitis. 11(12):1420-1429, 2017. 

(6) Zhan Y-L, Zhan Y-A, Dai S-X. Is a low FODMAP diet beneficial for patients with inflammatory bowel disease? A meta-analysis and systematic review. Clin Nutr. 37(1):123-129, 2018. 

(7) Halmos EP, Christophersen CT, Bird AR, et al. Diets that differ in their FODMAP content alter the colonic luminal microenvironment. Gut. 64(1):93-100, 2015.

(8) Hustoft TN, Hausken T, Ystad SO, et al. Effects of varying dietary content of fermentable short-chain carbohydrates on symptoms, fecal microenvironment, and cytokine profiles in patients with irritable bowel syndrome. Neurogastroenterology & Motility. 29(4), 2016. 



執筆: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国管理栄養士)

監修: 杉原 康平(栄養学博士、管理栄養士)、堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)