専門家の記事

みなさん、こんにちは。今回はIBD患者さんに限らず多くの方から質問を受ける「全粒穀物」について、注目を集めている理由やIBDとの関係について紹介したいと思います。



全粒穀物とは

全粒製品とは、精製されていない、皮などまで含まれる穀物です。例えば小麦で言うと、表皮や胚芽なども含まれた状態で、お米だと、玄米がわかりやすいかと思います。なお、例えばアメリカでは、原材料の51%が全粒製品だと、”全粒穀物”と表示できるため、100%とは限られませんが、何れにせよ精製度合いの低い穀物と言えます。



全粒穀物が体に良い理由

全粒製品が健康に注目を集めている理由は、精製の過程で削られてしまう皮や胚芽などに体に必要な栄養素が多く含まれているからです。例えば玄米と白米を比較すると、水溶性・非水溶性の食物繊維、ビタミンB群・Eなど、さらには鉄やマグネシウムなどのミネラルについても玄米の方が豊富に含まれます。


またこれまでの研究で、全粒穀物の摂取量が多い方が、心臓などの循環器系疾患の致死率やがんでの致死率が低いことなどが示されています(1)。このようなことから、特に海外では管理栄養士からはもちろん、USDA(アメリカ農務省)などの行政当局からも、健康的な食事として、白米などの精製穀物ではなく玄米などの全粒穀物が推奨されています。


私も特に脂質異常症などの生活習慣病患者さんに全粒穀物を少しずつでも食事に取り入れることをお勧めすることが多いのですが、その理由は、穀物は主食であり摂取頻度が高いので、少量ずつでも毎日摂取することで栄養バランスを整えやすいことによります。



IBDと全粒穀物

IBDでは、活動期では、低脂質・低食物繊維食が推奨されます。これは消化管に負担をかけないためです。全粒製品にも食物繊維が豊富に含まれますので、活動期には全粒穀物の摂取を控えましょう。


一方、寛解期については、狭窄などのリスクのある患者を除き、徐々に食物繊維の摂取量を増やし、健康な方と同程度を目標とすることが勧められます。


全粒製品のみでクローン病や潰瘍性大腸炎に有益であることを示した研究はありませんが、アメリカでは寛解期もIBD患者に対して全粒製品が勧められることも多く、日本で行われたIBDへの有用性が示唆されているPlant-based Dietの研究(2)においても玄米が使われています。よって、IBD患者さんにとって、寛解期の食物繊維やビタミン・ミネラルの摂取源として、全粒製品は有益と考えられます。


ただ、他の食物繊維が含まれる食べ物と同様に、玄米や全粒パンなどの摂取を始める時は、少量から摂取を開始し、消化器症状が出ないことを確認しながら、徐々に摂取量を増やしていきましょう。なお、少量でも消化器症状が出る場合はその全粒製品の摂取は避け、別の全粒製品を試すか、野菜や果物など別の食物繊維やビタミン・ミネラル源を模索されることをお勧めします。



我々管理栄養士が、IBD患者さんに対して様々な食品を紹介する理由は、IBD患者さんにおいても、消化器症状の発生を避けながらも、食事のバラエティを増やすことが、栄養バランスの良い食事につながり、IBDの長期的な管理や日々の生活の質の向上に繋がると考えているからです。


もちろん患者さん個々人によって食事に対する反応は異なるため、全ての人に当てはまる食事療法を紹介することは難しいですが、これからも様々な食事や食品、そして食事療法を紹介していきたいと思います。



参考文献・情報

(1) https://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/what-should-you-eat/whole-grains/

(2) Chiba M, et al. Lifestyle-related disease in Crohn's disease: relapse prevention by a semi-vegetarian diet. World J Gastroenterol. 2010 May 28;16(20):2484-95.