専門家の記事
こんにちは、米国登録栄養士の宮﨑です。約3年前に低FODMAP(フォドマップ)食の基礎的な記事を投稿したのですが、改めて最新の情報をベースにアップデートいたしました。
今回は、私が所属していたミシガン大学をはじめアメリカで、過敏性腸症候群(IBS)患者さんや、寛解期のIBS症状を有するIBD患者さんに幅広く処方されている食事療法, 低FODMAP食の概要について紹介いたします。
IBDと低FODMAP食のポイント
・FODMAPを含む食事は腹痛・下痢に繋がる可能性ありも反応は個人差あり
・IBDに関する科学的根拠は徐々に蓄積し、寛解期の食事療法の選択肢の一つに
・最近は簡易版の低FODMAP食も臨床で活用
ーーFODMAP(フォドマップ)とは?
FODMAPとは、以下の頭文字を組み合わせた言葉になります。
Fermentable:発酵性の
Oligosaccharides:オリゴ糖(フルクタン、ガラクトオリゴ糖)
Disaccharides:二糖類(ラクトース)
Monosaccharides:単糖類(フルクトース)
And
Polyols:ポリオール(ソルビトール、マンニトール、イソマルト、キシリトール、グリセロール)
多くの人はこれらのFODMAPを問題なく消化・吸収することができます。
しかし、IBS患者さんやIBD患者さんの中には、これらのFODMAPの一部を小腸で吸収することができず、そのまま小腸に残ってしまうことがあります。
この小腸内に残存したFODMAPがIBDやIBS患者さんの消化器症状に関わると考えられています。
これらのFODMAPが消化器症状を引き起こす機序として、以下の2つのことが関与すると言われています。
1)消化管内に過剰に水分を滞留させる
小腸内に残存したFODMAPが、小腸の表面から水を吸い上げて、消化管内に過剰に水分を滞留させます。消化管内に水分が溜まることによって、腹部の膨満感や腹部の痛みや、下痢などの原因になると考えられています。(1),(2)
FODMAPの小腸への影響
(動画:米国登録栄養士がゼロから教える栄養学「低FODMAP食」より抜粋)
2)腸内細菌によって発酵され、ガスを発生させる
吸収されなかったFODMAPは、大腸まで移動し、腸内細菌により発酵されます。その結果、ガスが消化管内に滞留し、腹部の膨満感や痛みにつながると考えられています。(1),(2)
FODMAPの大腸への影響
(動画:米国登録栄養士がゼロから教える栄養学「低FODMAP食」より抜粋)
ーーどれくらいのフォドマップ(FODMAP)を食べたら症状が出るの?
では実際にどの程度のFODMAPを食べたら消化器症状に繋がるのでしょうか?
これは非常に難しい問題で、患者さん一人一人で処理することのできるFODMAPの上限量が異なっています。
この上限量は、バケツに想像してもらうとわかりやすいと思います。
FODMAPと体のイメージ図
(動画:米国登録栄養士がゼロから教える栄養学「低FODMAP食」より抜粋)
FODMAPが含まれる様々な食べ物を食べていると、バケツの中のFODMAPが徐々に増えていきます。
FODMAPが溜まり、バケツが溢れると(上限量を越えると)、消化器症状が現れると考えられています。
ここで理解すべきポイントは、FODMAPは累積するということです。一つ一つのFODMAPを摂取して症状がでない場合でも、それが徐々に蓄積していくと、消化器症状が現れる可能性があります。
また累積するということは、食べ物に含まれるFODMAPの量が重要になります。
なお、5つのFODMAPグループのうちどのFODMAPグループが含まれている食品を食べて消化器症状が出るかも人によって異なります。
消化器症状を引き起こす原因となる食品を特定した上で、原因となる食品の食べる量を調整しながらバランスの良い食事を摂取することが低FODMAP食のゴールとなります。
具体的にどのFODMAPがどの食品に含まれているか、どのような流れで行うのかについては実践編の記事で紹介していきます。
ーー低FODMAP食はIBDに有効なの?
IBD患者さんのうち約1/3の方は、寛解期で炎症が落ち着いているにもかかわらず腹痛・下痢等の消化器症状を有していると言われています。(3),(4)
以前から消化器症状と食事の関係は注目されており、グルテン除去食やラクトース除去食などの食事療法が試されてきました。
その中でも最も科学的なエビデンスが構築されてきたと言われるのが低FODMAP食です。
イギリスで行われた臨床試験では、消化器症状が安定している寛解期IBD患者が、FODMAPが含まれる食事を試してみた結果、複数のFODMAPがIBD患者の消化器症状悪化に繋がったことが確認されました。(5)
また、寛解期IBD患者の消化器症状に対する低FODMAP食の効果を検証した複数の臨床研究結果を解析したメタアナリシスも行われており、低FODMAP食が、寛解期IBD患者の下痢、腹痛、膨満感、疲れ、吐き気などの症状を改善させることが確認されています。(6)
これらの結果から、FODMAPが寛解期IBD患者の消化器症状の原因の一つであり、FODMAPを制限することにより消化器症状が改善される可能性が示唆されました。
一方で、低FODMAP食が腸内細菌の構成に及ぼす影響が懸念されています。
例えば、IBS患者と健常人を対象として、低FODMAP食とオーストラリアの一般的な食事が腸内細菌に及ぼす影響を検証した試験では、低FODMAP食により、善玉菌のような身体に良い腸内細菌が減少することが確認されました。(7)
しかし、低FODMAP食による腸内細菌環境の変化は、低FODMAP食をやめることで元に戻ることも確認されています。(8)
また長期的な低FODMAP食に関する効果・安全性についても研究結果が報告され始めており、18名のIBS患者さんを対象とした試験では、低FODMAP食を行った患者さんの多くが12ヶ月後も消化器症状改善が続き、善玉菌と言われるbifidocteriaは開始時と同程度であったことが確認されました。(9)
以上、低FODMAP食のコンセプトと、IBDに関するエビデンスについて紹介させていただきました。
次回の実践編の記事では、具体的に低FODMAP食をどのように実践するのかについて、詳しく説明させていただきます。
また低FODMAP食については動画も作成しました。Gコミュの方には特別クーポンをご用意しておりますので、ご興味ある方は下記リンクからお入りいただければと思います。ぜひチェックください!
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参考文献
(1) Chey WD, Eswaran S, Kurlander J. Irritable bowel syndrome: a clinical review. JAMA. 3;313(9):949-58, 2015.
(2) Staudacher HM, Whelan K. The low FODMAP diet: recent advances in understanding its mechanisms and efficacy in IBS. Gut. 66(8):1517-1527, 2017.
(3) Farrokhyar, F., Marshall, J. K., Easterbrook, B. & Irvine, E. J. Functional gastrointestinal disorders and mood disorders in patients with inactive inflammatory bowel disease: Prevalence and impact on health. Inflamm. Bowel Dis. 12, 38-46, 2006.
(4) Simrén, M. et al. Äi0Quality of life in inflammatory bowel disease in remission: the impact of IBS-like symptoms and associated psychological factors. Am J Gastroenterol. 97, 389-396, 2002.
(5) Cox SR, Prince AC, Myers CE, et al. Fermentable Carbohydrates [FODMAPs] Exacerbate Functional Gastrointestinal Symptoms in Patients With Inflammatory Bowel Disease: A Randomised, Double-blind, Placebo-controlled, Cross-over, Re-challenge Trial. J Crohns Colitis. 11(12):1420-1429, 2017.
(6) Zhan Y-L, Zhan Y-A, Dai S-X. Is a low FODMAP diet beneficial for patients with inflammatory bowel disease? A meta-analysis and systematic review. Clin Nutr. 37(1):123-129, 2018.
(7) Halmos EP, Christophersen CT, Bird AR, et al. Diets that differ in their FODMAP content alter the colonic luminal microenvironment. Gut. 64(1):93-100, 2015.
(8) Hustoft TN, Hausken T, Ystad SO, et al. Effects of varying dietary content of fermentable short-chain carbohydrates on symptoms, fecal microenvironment, and cytokine profiles in patients with irritable bowel syndrome. Neurogastroenterology & Motility. 29(4), 2016.
(9) Staudacher HM, et al. Long-term personalized low FODMAP diet improves symptoms and maintains luminal Bifidobacteria abundance in irritable bowel syndrome. Neurogastroenterol Motil
. 2022 Apr;34(4)