今回は患者さんからの内視鏡検査後の食事に関する質問についてです。現在Gコミュニティ内で質問しにくい方の匿名質問も受け付けていますのでぜひお気軽に投稿ボタンからご質問ください。
<質問>
大腸カメラ施工後に、ヤクルトやヨーグルトの様な「腸に良い」食事を摂った方が良いのでしょうか?
<回答>
ご質問いただきありがとうございます。内視鏡後の食事についてですが、せっかくの機会なので、一般的な内視鏡検査後の食事についてお伝えした後に内視鏡と腸内細菌に関する話題に触れたいと思います。
内視鏡検査直後の食事
内視鏡後の食事については細かな指示は関連学会なども示してはいません。例えば、日本消化器内視鏡学会のHP(1)には「最初、水を少し飲み、気分が悪くならなければ食事をしても結構です」程度の記載しかありません。
医療機関においても、一般的に、水分を十分に補給しながら、消化管に負担のかかる様な脂っこいもの、刺激の強いもの、ガスの発生しやすい食べ物を避け、徐々に通常の食事に戻していくことが推奨されることが多いかと思います。
内視鏡検査と腸内細菌
IBD患者を対象とした研究ではありませんが、大腸がん患者を対象とした内視鏡検査の前処理と腸内細菌の研究(2)などにいて、内視鏡検査の前処理が腸内細菌に影響を与えることが報告されており、腸内細菌を元に戻す方法としてプロバイオティクスの投与に関心がもたれています。
ちなみにプロバイオティクスとは、ヤクルトやヨーグルトなどに含まれる乳酸菌などの腸内で健康に良い影響を与える微生物のことです。
内視鏡後のプロバイオティクス投与は効果的?
結論から言いますと、IBD患者さんが内視鏡後にプロバイオティクスを摂取することが良いかという点についてまだ研究が十分には行われておらず、わかっていません。
しかしIBD以外ではいくつかの研究報告が行われています。
例えば、オーストラリアで行われた臨床研究では、320名の内視鏡検査を受けた患者に対して、内視鏡実施日から14日間プロバイオティクスを投与した結果、プロバイオティクスを服用しなかった群と比べて内視鏡後の腹痛が有意に軽減されました(3)。
また、IBS患者を対象とした別の臨床試験において、プロバイオティクスを内視鏡直後と一ヶ月後から開始したグループでは、腹痛が有意に改善されました(4)。
これらの研究から、プロバイオティクスが内視鏡後にポジティブな影響を与える可能性が示唆されており、さらなる研究が期待されています。
プロバイティクスに関する留意点
これらの試験ではある特定の菌株(腸内細菌の種類)が使われていますが、他の異なるプロバイオティクスでも同様の効果があるかはわかりません。例としては、プロバイオティクスの効果があるという研究があっても、市販のヤクルトで同じ効果があるかはわからないということです。
さらに腸内細菌のバランスは個々人によって異なります。よって、ある患者さんに効果があったと考えられるプロバイオティクスを摂取しても、別の患者さんでは効果がない可能性が大いにあります。
他方、プロバイオティクスの良い点は、副作用が非常に少ない点です。
上記のような特性を踏まえ、例えば私が勤務していたミシガン大学病院などでは、疾患ごとに異なりますが、プロバイオティクスに興味があり金銭的に余裕のある患者に対しては科学的エビデンスのあるプロバイオティクスの使用を勧めていましたが、全ての患者に勧めることはありませんでした。
IBDとプロバイオティクスについては「IBDとプロバイオティクス」の記事に詳細をまとめていますのでぜひご覧いただけましたらと思います。
いかがでしたでしょうか? プロバイオティクスに関する質問・疑問等あればお気軽にコメント頂けましたらと思います。またプロバイオティクス関連で面白い研究があればGコミュニティで紹介させて頂きます。
参考情報/文献
(1) https://www.jges.net/citizen/check-cure/no3-2
(2) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20799286/
(3) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6036777/
(4) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26183594/