専門家へのお悩み相談

こんにちは。今回は、皆様が困惑されることの多い、医師や栄養士によって脂質やエレンタールの指導内容が異なることについて解説したいと思います。


【Question】

クローン病の息子のことです。転勤により東京から関西の大学病院を紹介されたんですが 東京ではマニュアルどおり脂質30グラム、エレンタールもなるべく二本くらいということでした。こちらではトンカツでも唐揚げでも下痢が一週間続いたら止めてくださいとのこと。長々とすいません。どう受け止めたらいいんでしょうか


【Answer】

このクローン病と脂質に関して、医師や栄養士によって食事指導内容が異なる理由は、科学的根拠(エビデンス)となる研究が弱い・少ないことと考えられます。


まず、一般的に、脂質の多い食事は消化吸収に時間がかかり、腸管の運動が活発になると考えられています。そのため、炎症の強い活動期では、腸管の安静を保つために低脂質食が望ましいとされています。


そして、病気が安定している寛解期では、潰瘍性大腸炎では特に脂質制限が行われないのが一般的ですが、クローン病では脂質制限が行われる場合があります。


クローン病で低脂質食が推奨される理由として、日本では以下の2つの報告・研究が影響していると思います。


(1)平成10年の難治性炎症性腸管障害調査研究班の報告によると、脂質の摂取量が30gおよび40gのクローン病患者さんに比べ20g摂取しているクローン病患者さんで再燃率が低かった。


 (2)脂質をほとんど含まない成分栄養剤が、クローン病の寛解誘導および寛解維持に有効であった。また、成分栄養剤に脂質を付加すると、クローン病の寛解誘導率が減少した。


しかし、上記2つの研究・報告は、かなり前の研究であることに加え、研究・試験の設計などの観点から科学的根拠として弱いと考えられます。またこれ以外の研究においてもクローン病患者に対して、脂質の総量をどの程度まで制限するべきかという議論に繋がる研究は少ないと考えられます。


実際に、アメリカでは、クローン病患者に対しても、寛解期に脂質の総量を30gに抑えるといったような、具体的な脂質の数値目標を設定するような食事指導は一般的に行われていませんでした。


以前の脂質の記事でも記載しましたが、アメリカでは、どちらかというと、脂質の総量ではなく、脂質の種類に注目が集まっています。https://gcarecommunity.com/article/86



このような経緯もあり、日本では、医師や栄養士によって、特に寛解期の食事指導内容が大きく異なるのだと考えられます。


なお、寛解期のエレンタール(栄養剤)の摂取については、欧米では、特段推奨はされてはいませんが、日本では、先ほどの臨床試験などを踏まえて、ガイドラインにおいても推奨されている形となっています。



ではこのような状況で、患者さんは食事指導をどのように解釈する必要があるのでしょうか?


結論としては、トライアンドエラーを繰り返し、患者さん個々人に合った最適な食事を探すということになると思います。


例えば、現在の先生が「トンカツでも唐揚げでも下痢が一週間続いたら止めてください」と指示しているのはまさに体の反応を見てみましょうという指示なのだと思います。


特に脂質については、患者さん個々人で反応が違うことが多い印象です。


下記の記事などを参考に、自分に合った・過度に精神的なストレスがたまらないような脂質との付き合い方を模索してみましょう。https://gcarecommunity.com/article/102


いかがでしたでしょうか?


今後この領域で面白い研究等がありましたらまた報告させていただきますね。


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